この事件でCAFCは、後発特許の審査中になされた主題の放棄(ディスクレイマー)が、既に発行済みの先行特許にも適用されると判示した。審査時の主張は特許発行の前後を問わず共通する用語の解釈において考慮されるため、意図しない限定を避けるには記録上で明確な撤回を行うなどの実務対応が極めて重要となる。
後から審査されるファミリー内の特許出願の審査中の主題の放棄は、先に発行されたそのファミリーの他の特許権の権利範囲を限定するとする判決が最近下された。その事件は、Barrette Outdoor Living, Inc. v. Fortress Iron, LP et al. である(事件番号:No. 2024-1231, 2024-1359、CAFC、2025年10月17日判決)。
Barrette社は4件の特許侵害を主張した。クレーム解釈において、Fortress社は、Barrette社が係争特許の1つである米国特許第9,151,075号(’075特許)の審査中に、特定の主題を放棄(ディスクレーム)したと主張した。当事者間において、当該主題の放棄(ディスクレイマー)が主張された時点で、4件の主張特許のうち2件(米国特許第8,413,332号および第8,413,965号、以下「先行特許」)が、米国特許商標庁によって既に登録されていたことは争いがなかった。
‘075特許となった米国特許出願第12/702,887号(’887出願)の審査中、審査官は先行技術である「Sherstad」文献がクレームされたコネクタを開示しているとしてクレームを拒絶した。この拒絶に対し、Barrette社は「Sherstadは従来のピボット穴とピボットピンの構成を開示しているが、特許請求している一体型のボス(integral boss)を有するスリップ結合構成』は開示していない」との理由で、自社のコネクタを差別化しようとした(判決文5頁)。Barrette社はさらに、Sherstadのピボットピン構成には置き換えるという開示はなく、仮に置き換えたとしても、結果として得られる構造は『一体型のボス』を含まず、同様のスリップ結合機能を提供しないと主張した(同頁)。審査官が拒絶を維持したため、Barrette社はその後、拒絶されたクレームを削除し、異なる範囲の他のクレームに差し替える補正を行った。特筆すべき点として、Barrette社が差し替えたクレームは、先行特許と整合するより一般的な「ボス(boss)」という用語を記載していたが、「一体型(integral)」という要件の表現を欠いていた。
地裁において、Fortress社は、Barrette社が’887出願での主張は、非一体型のボスに関する主題の放棄に該当すると主張した。Fortress社は、この主題の放棄は主張が行われた’075特許に限定されるものではなく、主題の放棄の時点で既に発行済みであったにもかかわらず、先行特許のクレームにも及ぶと主張した。Barrette社は、主題の放棄があったことを否定したが、いずれにせよ主題の放棄が先行特許に対して有効になることはないと主張した。
地方裁判所はFortress社を支持し、’075特許の審査過程における主張は、全ての主張特許における「ボス」という用語を一体型構造に限定すると判示した。この限定は、先行特許の発行後に主題の放棄が行われたにもかかわらず有効とされた。
控訴審において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、’075特許の審査過程における主題の放棄が既に発行済みの先行特許のクレームには適用されないとするBarrette社の主張を退けた。法廷は、関連特許の審査中になされた主張は、その主張が当該特許の発行前か後かにかかわらず、それらの特許に共通する文言を解釈する際に適切に考慮され得る」と判示した(判決文16-17頁)。
Barrette社は別途、審査官がBarrette社の主張に対して拒絶を維持し、そのクレームが後に削除されたことから、’887出願での主張は「明確かつ疑いのない主題の放棄(clear and unmistakable disclaimer)」を示していないと主張した。CAFCはこの主張も退け、審査過程を合理的に読めば、審査官がBarrette社の主題の放棄を拒絶したとは示されていないと判断した。代わりに法廷は、審査官が拒絶を維持したのは、クレームの範囲に関する意見の不一致ではなく、先行技術の範囲に関する意見の不一致に基づいていたと判断した。その際、法廷は「審査過程における主題の放棄の分析は、出願人が何を述べたかに焦点を当てるものであり、その表明が必要であったか、あるいは説得力があったかではない」とする過去の判決を引用した。
法廷は、出願人が審査中に、以前に審査された先行技術を再検討する必要があることを審査官に通知することで、主題の放棄を撤回(rescind)できるとする連邦巡回区の先例を認めたが、Barrette社は口頭弁論において、本件ではそのような撤回を行わなかったことを認めた。
実務上のヒント:
特許審査中に主題を放棄する場合、出願人はその主題の放棄を撤回することが適切かどうかを検討すべきである。主題の放棄を撤回するためには、その撤回が明確かつ記録上(オン・ザ・レコード)でなければならない。
継続出願を提出する際に、出願時に明確な撤回を行うことは有用な実務である。例えば、継続出願の提出書類に以下のような撤回文言を含めることが考えられる。
「本出願で提示されたクレームの審査は、親出願のクレームの審査とは独立して考慮されるべきである。親出願の先行技術または請求された発明に関するいかなる主題の放棄や特徴付けも、その親出願のクレームのみに関連するものであり、ここに撤回される。出願人は、本出願の審査中に明示的に再主張されない限り、親出願の審査中に主張された断定や議論に限定されることを意図していない。したがって、審査官は、現在請求されている発明を、親出願の審査に基づく予断を持つことなく、独立したものとして考慮しなければならない。親出願において差別化された先行技術は、審査官によって再考される必要がある場合がある。審査官は、本出願において関連として参照されている親出願のファイルラッパーの文書にアクセス可能であり、出願人は審査官にそれぞれの審査履歴からのすべての文書を提供する必要はないと考える。出願人は、特許庁が上記に同意しない場合には、速やかに出願人に通知することを謹んで要請する。」最後に、後発出願の審査中になされた権利を狭める主張は、先に発行された特許のクレームに対しても同等の効力を持って適用され得ることに留意することが重要である。出願人は、同一ファミリー内の既登録特許に見られる限定事項を含むクレームの審査において、いかなる主張や補正も慎重に検討すべきである。Barrette事件において、被告が勝訴したのは、特許権者が審査中に、明示的なクレーム文言から離れた主張を提出したためである。この事件は、審査中の主張は実際のクレーム文言に厳密に従うべきであり、特にそのクレーム文言が関連特許で使用されている場合にはそうである、ということを改めて思い知らされる事例となった。
報告者紹介
William C. Rowland
Shareholder, Buchanan Ingersoll & Rooney
William C. Rowland is co-chair of Buchanan’s Intellectual Property section and Patent Prosecution group, and is the Mechanical Practice Group leader. His practice is focused on client counseling on intellectual property matters, concerning both domestic and international issues, as well as drafting and prosecuting patent applications in mechanical, optical and electrical technologies and industrial designs.
He earned his J.D. from The George Washington University Law School in 1980, following his B.S. in Mechanical Engineering from the University of Vermont, where he graduated cum laude in 1977.