IPRにおけるクレーム補正のモーション(MTA)において、特許権者が答弁書においてした明細書のサポートの補足をPTABが認めたのは誤りであるとのIPR申立人の控訴を、CAFCは、「MTAパイロット・プログラム」(2019年)の趣旨に基づいて退けた。
MTA Pilot Program Noticeに基づくPTABの特許権者に対する助言に従った特許権者の答弁書による補足が認められた事件
UNM Rainforest Innovations(UNMRI)は、複数ユーザー間で同時通信を可能にする直交周波数分割多重通信に関する特許(US8,265,096、以下096特許)を保有し、ZyXELを含む複数企業を特許侵害で訴えた。
ZyXELは096特許のIPRを請求し、TalukdarおよびLiの米国公開特許を無効資料として無効を主張した。また、ZyXELは、クレーム8は、Takukdar及びNystromの米国公開特許を無効資料として無効を主張した。PTABは、TalukdarとLiの2件の公知例の組み合わせにより、クレーム1-4,6,7が自明であると認定した。クレーム8については、ZyXELが、TalukdarとNystromの組み合わせる動機付けを示していないとして無効の主張を退けた。UNMRIは、PTABのガイダンス(preliminary guidance)に従い、無効とされたクレームの補正のためのモーション(MTA)を提出し、PTABはそれを認めた。
ZyXELは、クレーム8の有効認定及びMTAが受理されたことを不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、PTABによるクレーム1-4,6,7の無効の判断を支持したが、クレーム8については、PTABの有効性の判断を覆し、TalukdarとNystromの組み合わせにより、自明であると認定した。そして、クレーム8が無効とされた場合、補正クレーム1-4,6-8について、Talukdar、Li、Nystromの組み合わせに対して自明であるかを検討する必要があるとして、PTABに差し戻した。
また、ZyXELは、UNMRIが、MTAの申立時に、新たに追加された限定事項のみについてのサポートを示し、代替クレーム全体に対するサポートを示しておらず、答弁書において明細書の記載のサポートを補足することは認められるべきではないと主張した。
これに対し、CAFCは、次のように判断した。MTA Pilot Program Noticeでは、補正の申立てをサポートするすべての主張及び証拠は、申立自体に記載しなければならないという原則を排除するものではないが、MTA Pilot Program Noticeの目的を考慮しなければならない。MTA Pilot Program Noticeの目的は、補正の申立が法律および規制上の要件を満たしているかどうかに関するフィードバックを提供し、当事者がそのようなエラーに対応し、対処できるようにすることである。MTA Pilot Program Noticeでは、特許権者が「PTABのpreliminary guidanceおよび申立人の反対意見」への対応、および「宣誓供述書を含む新たな証拠を答弁書とともに提出する」ことも許可している。したがって、UNMRIのMTAの答弁書による明細書の記載のサポートの補足は、PTABのガイダンスに沿った手続きである。仮に、答弁書で明細書の記載のサポートを補足することが規則に違反したとしても、PTABの決定を覆すほど重要な誤りとは言えない。
MTAパイロットプログラムについて
本件で問題となったpreliminary guidanceとは、MTA Pilot Program Notice(84 Fed. Reg. 9497 (Mar. 15, 2019)に基づくPTABの特許権者に対する助言であり、補正のためのモーション(MTA)について要請があったときに出される。IPRにおける特許権者の補正申立(Motion to Amend、MTA)の手続きを改善することを目的とするもので、IPR手続きでの補正が従来よりも柔軟に認められるようになった。