CAFC判決

CAFC判決

Wireless Agents LLC 対 Sony Ericsson Mobile Communication AB事件

No. 2006 U.S. App. LEXIS 18933,2006,12,Fed. Cir. 2006

本件では、例え請求項において明示的に除外されていない事項であっても、特許明細書において欠点として批判され、明らかに発明から除外されていることが読みとれる場合は、その事項を除外して権利範囲が解釈される可能性があることが明らかになりました。すなわち、発明を特定するための従来技術に対する否定的な記述は、後の訴訟において特許権者に対して不利に解釈される可能性があります。

明細書における否定的見解に基づきクレームの範囲が限定的に解釈される場合を扱った事件

Wireless Agentsのケースでは、Wireless Agents LLC(以下、Wireless)は、Sony Ericsson Mobile Communications (USA) Inc.(以下、Sony)に対する仮差し止めを申し立てたが、テキサス州北部地区の米国地方裁判所はこれを棄却し、CAFCは地方裁判所の決定を支持した。

地方裁判所は、クレームにおけるalphanumeric keyboardという文言を狭く解釈したので、Wirelessが侵害を立証することは成功しそうにないと判断した。特許明細書において発明を従来技術と差別化する文言に基づいて、地方裁判所は文言を狭く解釈したのである。

CAFCは地方裁判所に同意し、次のように述べた。「クレームの文言は、明細書を参照せずに読めば、争点となっている特徴を包含するように十分広く解釈されるかもしれない。しかし、発明が特定の特徴を含まないということを明細書が明らかにしている場合は、その特徴は、特許クレームの範囲外と見なされる」。

Wirelessは、「ハンドヘルドタイプの電子通信デバイスの物理的構造」という発明の名称を持つ米国特許6,665,173B2(2000年12月20日出願)(以下、173特許)の特許権者である。

173特許の唯一の独立項は、モニタを180度回転させることにより現れるアルファニューメリックキーボードを備える通信デバイスを記述している。モニタは、縦にひっくり返って開くのではなく、横にスライドすることによりキーボードに対して回転するため、常に見える位置にある。

Wirelessは、SonyがS700iタイプ及びS710aタイプの携帯電話を販売することを阻止するために、仮差し止めの申立てを行った。

イ号の携帯電話は、回転すると下にキーボードが現れるディスプレイを備えているが、そのキーボードは、アルファニューメリックキーボードではなく、12ボタンのキーボードであり、各々のキーには、数字の0~9、*、及び、#が割り当てられている。

しかしながら、各々の数字キーには、ユーザが繰り返しキーを押下することにより得られるいくつかの英字も割り当てられている。

侵害被疑品は、ユーザによってキーが押下されると一般的なユーザの望むであろう単語を予測するテキストソフトウェアも搭載している。そのため、1つのキーで表される文字の間をトグルする必要を回避し、高速にテキストを入力することが可能である。

地方裁判所のシドニー・フィッツウオーター判事は、文言侵害されているクレームをうまく立証できそうだということをWirelessが明らかにしなかったので、仮差し止めの申立てを棄却した。

CAFCはこの決定を支持し、173特許において使用されている”alphanumeric keyboard”という文言はSonyのイ号の電話において使用されている12ボタンのキーボードをカバーしないとした地方裁判所の判断に同意した。

CAFCは、主にWirelessの特許明細書に基づいて”alphanumeric keyboard”を解釈した。この特許明細書には、12ボタンの構成と文字間をトグルするシステムとが、「遅く、扱いづらく、間違いをしやすく、定期的にテキストデータを送信することを意図したデバイスには適していない」と記述されていた。

そのため、CAFCは、例え実際のクレームの文言は12ボタンのキーボードを包含し得る程度に十分広いものであっても、173特許において使用されている”alphanumeric keyboard”は12ボタンのキーボードを含まないと解釈した。

例えクレームにおいて明示的に除外されていなくても、裁判所は特許明細書において欠点として批判されている実施形態を除くようにクレームの限定を解釈する可能性があるということを本件は明らかにした。

従って、クレームだけではなく特許明細書においても注意深い表現をすることの重要性を本件は強調する。発明を従来技術と差別化するために使用されている記述は、後の訴訟において特許権者に対して不利に使用される可能性がある。