CAFC判決

CAFC判決

Wi-Fi One, LLC 対 Broadcom Corp. 事件

No. 2015-1944,2018,1,Fed. Cir. January 8, 2018

CAFCはこの判決で、IPRの申請が時期的制限により禁じられるか否かについてUSPTOによりなされた決定を再審査の対象とすると判示した。すなわち、IPR申請が時機に遅れたものであると特許権者が主張し、PTABがそれにもかかわらずIPRを開始した場合、特許権者はPTABの決定に対して不服を申し立てることができる。

時期的制限によるIPRの開始拒否に対する不服申立を認めたCAFC判決

CAFCは全員法廷判決で、当事者系レビュー(IPR)の申請が35 U.S.C. § 315(b)の下で時期的制限により禁じられるか否かについて米国特許商標庁(USPTO)の決定を司法審査の対象とすると判示した。特に、CAFCの多数意見は、開始決定に関する35 U.S.C. § 314(d)の司法審査に対する制限が35 U.S.C. § 315(b)の下での時期的制限による禁止の決定に適用されない、と判じた。

IPRは、発行された特許が無効であるか否かについてUSPTOが審査する行政審査である。IPRはAmerican Invents Actの一部として設立された。IPRを統べる法は35 U.S.C. §§ 311-315に規定されている。任意の第三者は、対象特許のクレームがIPR申請で特定される特許および印刷物により新規性がない、またはそれらに照らし自明であるから無効であると認めるよう、USPTOに申請することができる。

USPTOの長官は、IPRを指揮する権限を特許審判部(PTAB)に委ねている。PTABはまずIPRを開始するか否かを決定し、もし開始する場合は、対象クレームが特許可能か否かを(一年ほどの手続きを経て)決定する。IPRの開始は35 U.S.C. § 314に規定されている。セクション314(a)は、IPRを開始するためのしきいを設けている(「対象クレームのうちの少なくとも1つについて申請者が勝利する確率が相当あること」)。一般に、IPRを開始するか否かについてのPTABによる決定に対しては、不服を申し立てることはできない。セクション314(d)は、「このセクションの下での当事者系レビューを開始するか否かの長官による決定は最終的なものでなければならず、それに不服を申し立てることはできない」と規定する。

また、§ 315(b)の下、申請者には時期的制限が課されうる。すなわち、申請が「申請人、実質利益当事者または申請人の利害関係人が特許権の侵害を主張する申し立てを受けた日から一年後よりも後に提出された」場合、IPRを開始することはできない。過去に、CAFCの合議体による決定は、§ 314(d)により、PTABによる時期的制限の決定に対しては不服を申し立てることができない、としたことがあった(Achates Reference Publishing, Inc. 対 Apple Inc., 803 F.3d 652, 658 (Fed. Cir.2015))。Achatesは、Cuozzo Speed Technologies, LLC 対 Lee, 136 S. Ct.2131 (2016)の最高裁判所の判決よりも前の決定であった。Cuozzoにおける最高裁判所の判決は、初めて、§314(d)の不服申立不可規定の解釈およびIPRを統べる他の法セクションへのそれの適用可能性を提供した。

本件では、申請者であるBroadcomは、三つの異なる特許権に対して三件のIPR申請を行った。開始の前に、特許権者であるWi-Fi Oneは、それらの申請が§ 315(b)の下で時期的制限により禁じられていることを立証するために、それらの特許権を含む以前の訴訟からBroadcomと被告との間に利害関係が存在したか否かについて証拠開示を求めた。Broadcomは以前の訴訟では被告ではなかったが、Broadcomの技術は被疑侵害品のうちの少なくともいくつかで用いられており、Broadcomは以前の訴訟における被告のうちの少なくともいくつかと特許補償契約を有していた。PTABは証拠開示を拒否し、IPRを開始した。レビュー終結時にPTABは、対象クレームを特許許可しないとする最終的な書面決定を発行した。最終的な書面決定において、PTABは、Wi-Fi OneがBroadcomと以前の訴訟の被告との間の利害関係を立証しておらず、したがって、Broadcomがこれらの特許権に対するIPRを申請することを§ 315(b)の下で禁じられることはないと述べた。

Wi-Fi Oneは、§ 315(b)の下でBroadcom(の申請)が禁じられないとするPTABの決定に対する不服をCAFCに申し立てた。Broadcomは、時期的制限の規定に関するPTABの決定に対しては不服を申し立てることができないと主張した。

CAFCの多数意見による決定をReyna裁判官が起案し、Prost裁判官、Newman裁判官、Moore裁判官、O’Malley裁判官、Wallach裁判官、Taranto裁判官、Chen裁判官およびStoll裁判官が参加した。この決定はAchatesにおける決定を覆した。そうすることは、Cuozzoにおける最高裁判所の干渉的な決定に言及することを要した。Cuozzoは、§ 314(a)の下での開始決定の再審理および「§ 314(a)決定に密に関連する」事項の再審理を斥けた。しかしながら、CAFCの多数意見が述べたように、Cuozzoは、行政処分の司法審査が好ましい「強い推定」を認めた。すなわち、議会が司法審査を禁じる「明確で説得力のある」意思表示を提供しない限り、司法審査は利用可能でなければならないということである。CAFCの多数意見はまた、§ 314(d)が開始決定の司法審査を禁じてはいるが、そこには、「このセクションの下での」長官の決定に対する司法審査が禁じられると明記されている、と述べた。 多数意見は、「このセクションの下での」が§ 314(a)の下での長官によるIPRを開始するためのしきいの決定を意味すると結論した。多数意見は、「サブセクション(a)は二つのことしかしない:それは開始のためのしきいの要件を特定し、および…それはしきいが満たされない場合でも開始しないという裁量を長官に与える」と述べた。

そして、CAFCの多数意見は、§ 315(b)にある時期的制限の規定が開始についての長官の決定に密に関連することはなく、またCuozzoにおける最高裁判所の判断が「予備的特許性判断または開始しないという裁量の行使に密に関連する長官決定に再審査不能性を限定することに強く向けられている」、と判じた。多数意見は、§ 315(b)が官庁の権限に対する法定制限であり、それは裁判所がこれまで審査してきたタイプの事案であると結論した。

CAFCの多数意見はその決定を§ 315(b)の時期的制限の決定に対する再審査可能性に限定し、当該決定が「§§ 311-14から生じている今日全ての係争が最終的で不服申立不可なものか否かについて決めるものではない」と述べた。CAFCの多数意見はまた、時期的制限の決定の実体には触れず、代わりにさらなる審理のために事案を差し戻した。

O’Malley裁判官は賛成意見を提出し、§ 315(b)時期的制限の決定の再審査可能性により、「[IPR]の開始申請の妥当性を審査するときに裁量を行使する長官権限と、まずそのような審査を行う権限と、の間の切り分けが可能となる」と論じた。また、「[PTO]が§ 315(b)の文言に反する状況下でIPR手続きを開始することによりその法定の権限を超えた場合、当裁判所は、上訴裁判所としての正しい役割の下、そのような決定を審査しなければならない」と論じた。

Hughes裁判官は反対意見を提出し、Lourie裁判官、Bryson裁判官およびDyk裁判官も参加した。Hughes裁判官によると、「§ 315(b)の下での申請の適時性は合議体による開始決定の一部であり、したがって司法審査の対象とはならない…。適時性に対する疑義は申請の実体に係るものではなく、PTOの最終決定の一部となるわけでもない。代わりに、PTOは、IPRをそもそも開始するか否かのPTOの予備的決定の範囲内で適時性を評価する。したがって、§ 315(b)の下での適時性は単純に、長官による開始決定に「密に結びつけられた」事項である」。Hughes裁判官はさらに、「法は特定の官庁の決定[(IPRの開始)]を要求し、かつ、裁判所がその決定を審査することを明確に禁じている」と論じた。

この決定は以下を意味する。すなわち、§ 315(b)の下でIPR申請が時期的制限により禁じられると特許権者が主張し、PTABがその申請を時期的制限により禁じると判断せずにIPRを開始した場合、特許権者はPTABの決定に対して不服を申し立てることができる。しかしながら、注意すべきなのは、この係争が開始後の実体に対する「最終的な書面決定」に対する不服申立を通じてCAFCに届いたことである。セクション319は、「最終的な書面決定」に承服できない者は不服を申し立てることができる、と規定する。しかしながら、法は、開始を拒否する決定に対して不服を申し立てるための明確な道を規定していない。したがって、PTABが時期的制限による禁止が存在すると判断して開始を拒否したときに申請者が不服を申し立てることができるか否かについて疑問が残る。そのような場合、最終的な書面決定が発行されることはなく、最終的な書面決定が無いときの不服申立について、法には何の明確なメカニズムもないからである。

情報元:

Michael P. Sandonato

Brian L. Klock

Venable LLP