特許付与後レビューの申立で特許侵害訴訟を停止させる基準を論じた判決,本件は、特許権者が特許侵害訴訟を提起した後で被告が申立ててあったPTOでの付与後レビューが開始された。CAFCは、付与後レビューが開始された状況においては、付与後レビューの対象クレームと裁判における係争クレームが同一である場合には、PTOでのレビューの期間、地方裁判所は裁判を延期すべきであることを示唆した。
特許付与後レビューの申立で特許侵害訴訟を停止させる基準を論じた判決
この事件においてCAFCは、特許商標庁(PTO)が対象ビジネス方法(CBM)レビューをしている間、裁判を延期することを拒絶した地方裁判所の判決を破棄した。
2011年に制定された米国発明者法(AIA)は、第三者がPTOで付与された特許の有効性を争うことを可能にする新たな行政手続きを導入した。これらの新たな手続きには、CBMレビューのほか、付与後レビュー(PGR)、当事者系レビュー(IPR)が含まれる。
CBMレビューは、金融商品・サービスの実施、管理、または運用に使用される方法、装置、あるいは操作についてクレームした特許に対して行われる。PGRおよびIPRは、あらゆるタイプのクレームを持つ特許において利用可能である。この2つの違いは、IPRが特許付与から9か月経過後に利用可能な一方で、PGRは特許付与後9か月以内に利用可能な手続きである。
CBM、PGR、IPRの各手続きは、特許権者が地方裁判所へ特許侵害訴訟を提起した後で被告によって開始されることが多い。これらのPTOにおける手続きは、立証責任が緩やかで、特許の有効性の推定がなく、開示手続きが迅速で、請求人側の主張が通る確率が高い、といった多くの理由から、多くの被告は地方裁判所において特許無効を主張して争うことと比較すると有利であると認識している。
もしこれらのPTO手続きの1つが、特許権者が地方裁判所へ提起した裁判の後に始まれば、被告は2つの並行する手続きに対処する責任を回避するために、地方裁判所での訴訟の延期を希望できる。
CBM、PGR、IPRのある手続的側面は概して類似しているが、他の手続きとは類似しない点を持つCBMレビューに関しては、地方裁判所内の延期について規定する固有の法律条項がある。
制定法はCBMレビューを考慮して延期を認めるか否かを決定する上で、地方裁判所に対し以下の4つの要因を考慮するよう規定している。(1)裁判を延期または延期しないことにより、争点が単純化し、裁判が簡素化するか、(2)開示手続きが完了しているか、また公判日が設定されているか、(3)裁判を延期または延期しないことが、裁判地への移動がない当事者にとって著しく不利益となるか、あるいは、移動が必要な当事者にとって明らかに戦術的に有利となるか、および、(4)裁判を延期または延期しないことが訴訟当事者および裁判所にとって、訴訟負担の軽減になるか、という点である。
CAFCは、バーチャル・アジリティ(VirtualAgility)事件において初めてこの法律を適用した。2013年1月、バーチャル・アジリティ(VirtualAgility Inc.)はテキサス州東部地区地方裁判所へ、米国特許第8,095,413号(413特許)の特許権侵害を主張して被告を提訴した。
5か月後の2013年5月、被告のうちの1社であるセールスフォース(Salesforce.com, Inc.)は、413特許のクレームは特許適格性のない発明主題であり、新規性なし、自明性を理由に無効であると主張しCBMレビューの申立てを提出し、同月、セールスフォースは地方裁判所における裁判の延期を申立てた。2013年11月、PTOはCBMレビューの申立てを一部認め、発明主題の特許適格性、新規性に基づくクレームの審理を命じたが、自明性についてはこれを認めなかった。
PTOは2014年7月の審理および2014年11月までの最終決定の予定を設定した。2013年11月にCBMレビューの制度が制定されてまもなく、セールスフォースはPTOの進捗を地方裁判所へ報告した。
しかしながら、2014年1月、地方裁判所は裁判の延期の申立てを却下した。セールスフォースは地裁判決に対し控訴した。控訴審においてCAFCはセールスフォースの主張を認め、地裁判決を破棄した。
CAFCは、争点の単純化と訴訟の責任に関する制定法の第1および第4要因は、延期する上で重要度が高いと判断し、PTOが1つの特許の全てのクレームについてCBMレビューを認めたことは重要であると認めた。
適用可能な法律に基づき、無効と主張されたクレームのうちの少なくとも1つが特許性なしの可能性があるならば、PTOはCBMレビューを行う。CAFCは、PTOが2つの独立した別の理由から413特許のクレームの全てに特許性がないと判断したと述べた。
CAFCは、PTOが最終的にクレームを無効と認定したならば、CBMレビューは訴訟全体を決着させるものであり、それは「最終的な争点の単純化」であると結論付けた。
地方裁判所は特許を審理し、PTOが特許を無効とは認定しないしないであろうと判断し、第1、第4要因は延期を認める上で重要ではないと判断した。CAFCは、立法趣旨は、CBMレビューの実体的事項に関するPTOの決定を審理する小さな裁判を地方裁判所が保留することを意図していないとして、地方裁判所のこの判断は誤りであると判示した。
タイミングに関する第2の要因に関して、CAFCは同様に、その要因は過度に延期に重きを置いていると判断した。2013年5月に被告が申立てを提出した当時、事件は4か月を経過していなかった。開示手続きはまだ始まっておらず、公判日も設定されていなかった。PTOがCBMレビューを認めた日の時点で、事実開示手続きは8カ月残っており、ジョイントクレーム解釈の供述書はまだ未提出であり、陪審員の選定もまだ1年先であった。
CAFCは、セールスフォースが申立てを提出した時点、あるいは地方裁判所が延期申立てを却下した時点で、訴訟はまだ初期の段階で延期を認められるものであったと結論付けた。
不利益または戦術的有利性に関する第3の要因に関し、CAFCは、この要因は他の要因と異なり、延期を認めることに対してやや否定的であると述べ、マーケットシェアおよび消費者の信用を失うことはバーチャルアジリティにとって重大であると述べた。
しかしながらCAFCは、バーチャルアジリティとセールスフォースが同じ顧客または契約において過去に争った証拠がないと述べた。さらにCAFCは、バーチャルアジリティが差し止め命令の申立てをしたことがなく、これは、早急に差し止めによる救済が必要であるというバーチャルアジリティの主張と矛盾するものであると述べた。
全ての要因の評価の後で、CAFCは、地方裁判所が延期の申立てを否定したことは裁量権の乱用であると結論付けた。
バーチャルアジリティ事件は、PTOが裁判で審理されているクレームと同一のクレームのCBMレビューを開始したら、地方裁判所は裁判を延期すべきであることを強く示唆している。複数の利害関係者および特許実務者は、CAFCが係属中のPGRまたはIPRを考慮して地方裁判所の裁判を延期する申立てを考慮する際に、バーチャルアジリティ事件の判決理由または類似した理由を採用するかどうかという問題を挙げている。
Key Point?本件は、特許権者が特許侵害訴訟を提起した後で被告が申立ててあったPTOでの付与後レビューが開始された。CAFCは、付与後レビューが開始された状況においては、付与後レビューの対象クレームと裁判における係争クレームが同一である場合には、PTOでのレビューの期間、地方裁判所は裁判を延期すべきであることを示唆した。