CAFC判決

CAFC判決

Vasudevan Software, Inc. 対 MicroStrategy, Inc. 事件

Nos. 14-1094, 14-1096,2015,6,3-Apr-15

実施可能要件および記載要件に関する特許権者側の専門家証言に対する反論が無かったことにより特許無効の略式判決を破棄した判決,この判決は、実施可能要件および記載要件の争点に関する専門家証言に対する反論が無い場合、これらの争点における特許無効の略式判決は破棄される可能性があることを示した。またこの事件はクレーム文言の解釈における審査経過の重要性を判示した。審査手続きにおいて出願人が明瞭に意見書で供述したことは、後に裁判において重要なクレームの文言を限定する可能性があることに注意すべきである。

実施可能要件および記載要件に関する特許権者側の専門家証言に対する反論が無かったことにより特許無効の略式判決を破棄した判決

VSi(Vasudevan Software, Inc.)は、互換性のない複数のデータベースからライブ・データを集計・処理することが可能なオンライン分析処理キューブ(OLAPキューブ)が持つ複数の異なる特徴に関する複数の特許権に対する侵害を主張して、MS(Micro Strategy, Inc.)およびTIBCO(TIBCO Software, Inc.)をそれぞれ個別の訴訟として提訴した。

地方裁判所においてクレーム解釈が示された後に、被告らは非侵害を主張した。地方裁判所は、MSに対して権利主張されたクレームは実施可能要件の欠如により無効であり、TIBCOに対して権利主張されたクレームは実施可能要件および記載要件の欠如により無効であるとの略式判決を下した。

CAFCは地裁のクレーム解釈を支持したが、特許無効の判決を覆す重要事実に関する真正な争点があったと判断し、略式判決を破棄した。

VSiの特許発明は、複数の互換性のないデータベース(陳腐化データ)を分析する前に、そこから得た変換データを格納しなければならないといった問題点を解決するものである。

特許発明は、「陳腐化した」データを中間格納リポジトリを経由することなく、互換性のない複数のデータベースから情報を収集・処理することが可能なOLAPキューブを作ることによってこの問題を解決するというものである。

個別の裁判において、VSiは、MSに対して4つの特許のクレームについて侵害を主張し、TIBCOに対し1つの特許のクレームについて侵害を主張した。

地方裁判所は2つの裁判を併合しなかったが、クレーム解釈の争点は一緒に審理した。両裁判の重要な争点は「全く異なるデータベース(disparate databases)」という文言の適切な解釈についてである。具体的には、「全く異なるデータベース」という文言の要件を満たすために必要となる非互換性の範囲に関して、被告らは同意しなかった。別の関連する争点は、「全く異なるデータベース」が「互換性のないデータベース」と同じ意味を持つか否かという点である。

地方裁判所は、係争特許のうちの一つの特許の審査中に提出された供述書が「全く異なるデータベース」という文言の解釈について説明していることを見出した。地方裁判所はまた、VSiがそれより以前の意見書において二つの文言は同じ意味であるべきと主張していたことから、VSiが「互換性のないデータベース」は「全く異なるデータベース」とは異なる解釈をすべきであると述べていたことは法的に禁反言を生ずると判断した。

こうして、地方裁判所は、「全く異なるデータベース」とは、(1)互換性のあるキーがなく、(2)同様な値のコラムIDの記録がなく、(3)スキーマまたは構造に、他にデータリンク可能な同様のフォーマットのコラムIDがないデータベースを意味すると解釈した。

裁判所のクレーム解釈を考慮して、被告らは非侵害を主張した。裁判所は、明細書には「全く異なるデータベース」の限定を裏付ける記載がなく、その限定がないと結論付け、被告による特許無効の略式判決の申立てを認める判決を下した。

控訴審においてCAFCはまず、平易な通常の意味は、「全く異なる」または「互換性のない」データベースがどの様なものかという疑問の余地を残している、と判断した。

CAFCはさらに、明細書は「全く異なるデータベース」という文言の範囲と意味を明らかにしていないと判断し、審査経過を審理し、データベースの全く異なる本質が何であるかを説明したVSiの供述書は、「全く異なるデータベース」という文言の定義を構成していると判断した。

審査中のVSiによる文言の定義付けは、VSiが提案したクレーム解釈とは矛盾していた。したがってCAFCは地裁のクレーム解釈を支持した。さらにCAFCは、「全く異なるデータベース」が「互換性のないデータベース」とは異なると主張したことで禁反言を生じたと判断した地方裁判所の判決を破棄することを拒否した。

無効性の争点に関し、CAFCは地方裁判所の判決に異議を唱えた。地方裁判所は記載要件の争点に関するVSiの専門家証言を「推論によるもの」として却下し、争点の特許は記載要件を欠くと判断した。しかしながら、CAFCは、VSiの主張に有利となる全ての合理的推論を考慮し、地裁とは異なる判断を下した。

CAFCは、記載充足要件のテストは、当業者が明細書を読んで、出願時点でクレームされた主題を発明者が所有していることを十分に理解できるか否かを判断することにある、と述べた。

具体的には、どのように全く異なるデータベースにアクセスするかを争点の特許が開示しているか否かに関する重要事実の真正な争点を生ずるに十分なほどに争点の特許が発明を開示していると、CAFCは述べた。

さらにCAFCは、反論されなかったVSiの専門家証言は、重要事実の真正な争点を生ずるものであり、全く異なるデータベースにアクセスする機能について示した明細書の特定の箇所に依存した単なる「推論による」ものではないと判断した。

実施可能要件の争点に関し、CAFCは地方裁判所の略式判決を破棄した。地方裁判所は、実施可能要件が欠如しているという判断の裏付けとして、発明者が発明を実施化するまでに要した時間を含む数多くの事実認定を強調したが、CAFCは、発明者が発明の商用グレードの実施品を作り上げるまでに要した時間自体は、実施可能要件の欠如を立証するには不十分であると判断した。

CAFCはさらに、発明者の実験が適切ではなかったという、反論されていないVSiの専門家証言に依拠した。クレーム発明に到達するほど十分に明細書が手引きしているか否かに関する事実問題があるとCAFCは述べた。

全ての合理的推論がVSiに有利であることから、CAFCは、これらの事実に関する争点は、特許無効の略式判決を覆すに十分であると結論付けた。

Key Point?この判決は、実施可能要件および記載要件の争点に関する専門家証言に対する反論が無い場合、これらの争点における特許無効の略式判決は破棄される可能性があることを示した。またこの事件はクレーム文言の解釈における審査経過の重要性を判示した。審査手続きにおいて出願人が明瞭に意見書で供述したことは、後に裁判において重要なクレームの文言を限定する可能性があることに注意すべきである。