この事件では、引例の組み合わせによる「成功の合理的な期待」が裏付けられていないこと、むしろ期待を損なわせる事情があったことに基づいて、この引例の組み合わせに対する非自明性が認められた。
IPRの無効審決が、クレームの限定要件のすべてが公知例に開示されておらず、「成功の合理的な期待」も証拠で支持されていないとされた事例
Strathclyde大学の研究者は、波長が400-500nmの青色光をバクテリアに照射すると、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのバクテリアが不活性化することを発見し、同方法に関する特許(9,839,706)を取得した。特許方法は、従来用いられていた光感作性薬剤(photosensitizing agent)を使用せずに、光不活性化反応(photoinactivation)だけで不活化する方法であった。
Clear-Vu-Lightingは、この特許に対してIPRを申請し、Ashkenazi公知例(「光感作性薬剤を使用した不活化方法」を記載)とNitzan公知例(「光感作性薬剤を使用しない条件で、波長407-420nmの青色光の照射後によりバクテリアの生存性は低下しなかった」と記載)他1件を引用して、本件特許が自明であると主張した。PTABは、Ashkenazi公知例とNitzan公知例の組み合わせにより、クレーム1~4が自明であるとして特許無効を決定した。PTABは、その理由として、クレームでは不活化の度合いについては特定されていないところ、Ashkenaziは照射量に依存して不活性化が進んでいるので、当業者はNitzanの方法によりある程度の不活化が起こることについて合理的な期待があった、と述べた。Strathclyde大学は、この審決を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、次のように述べてPTABの決定を破棄した。PTABは、公知例の組み合わせにより4つのクレームを無効としたが、公知例は、光感作性を利用しないでバクテリアを不活性化することを「教示も示唆も」(teaches or suggests)しておらず、「光感作性薬剤を使用せずに青色光の照射により細菌を不活化する」というクレームの要件はいずれの公知例にも開示されていない。また、光感作性薬剤を使用せずに細菌を不活化した例がないこと、むしろ失敗した例があることを踏まえれば、PTABが認定した「成功の合理的な期待」は証拠に裏付けられていない。