この事件は、一つのクレームが装置とその装置を使用する方法のような2つの発明をクレームしていると思える場合の不明確性を議論した。装置とその装置を用いる方法を1つのクレームで言及することで、クレームの一部が不明確であると判断されたとしても、装置クレームが機能的文言を持っているだけでは必ずしも不明確にならないと判断された。
機能的文言を用いた装置クレームの不明確性を判断した判決
アルティメイトポインター(UltimatePointer, LLC)は、任天堂がアルティメイトポインターの米国特許第8,049,729号(729特許)の権利行使クレームを侵害しておらず、権利行使クレームが不明確であるので無効であるとの地方裁判所の略式判決に対して控訴した。
729特許は、投影されたコンピュータ画面上のカーソルを制御するために用いられうるハンドヘルド型ポインティングデバイスを記載し、このデバイスによって、講演者が聴衆に向けてプレゼンテーションを行いつつカーソルを制御する能力が向上する。
アルティメイトポインターは、任天堂(Nintendo Co., Ltd.及びNintendo of America, Inc)並びにWiiシステムの小売業者をテキサス州東部地方裁判所(以下、テキサス州地方裁判所)に提訴し、Wiiシステムが729特許のいくつかのクレームを充足すると主張した。
両当事者は、「ハンドヘルド型デバイス」が直接ポインティングデバイスに限定されるべきか、それともその用語が間接ポインティングデバイスも含むかを争った。
テキサス州地方裁判所は、任天堂が提案した解釈を採用し、この用語が「ハンドヘルド型直接ポインティングデバイス」を意味すると解釈した。
訴訟の移送後、ウィスコンシン州西部地方裁判所(以下、ウィスコンシン州地方裁判所)は、任天堂が729特許の権利行使クレームを侵害していないとの略式判決を下した。
ウィスコンシン州地方裁判所の結論の主な根拠は、テキサス州裁判所が解釈したように、Wiiリモートが「ハンドヘルド型デバイス」でないということだった。ウィスコンシン州裁判所は、「直接ポインティングデバイス」を「物理的な照準点に画面上のカーソルを置く製品」であると解釈したのである。
Wiiリモートは直接ポインティングデバイスではなく間接ポインティングデバイスであるので、略式判決を切り抜けるのに十分な証拠をアルティメイトポインターが提示しなかったとウィスコンシン州裁判所は結論付けた。
控訴審において、アルティメイトポインターは、テキサス州地方裁判所が明細書から「直接ポインティング」の限定を権利行使クレームに課したことは誤りであったと主張し、729特許の特定の実施形態が直接ポインティングに関することを認めたものの、これらの実施形態がクレームの文言を限定すべきではないと主張した。
任天堂は、直接ポインティングが729特許のすべての態様に結びついているので、この限定は適切であると主張した。
CAFCは任天堂を支持した。CAFCは、本発明が直接ポインティングシステムとして繰り返し記載されていること、直接ポインティングの利点が繰り返し教示されていること、及び間接ポインティングが繰り返し批判されていることにより、「ハンドヘルド型デバイス」が直接ポインティングデバイスに限定されるという結論が十分に支持されるとの結論を下した。
アルティメイトポインターは、729特許の権利行使クレームが不明確であるので無効であるとの地方裁判所の判断についても争った。地方裁判所は、729特許の権利行使クレームが、装置とその装置を用いる方法の双方を対象とすると結論付けた。
この結論の根拠として、地方裁判所は、「イメージセンサを含むハンドヘルド型デバイスであって、前記イメージセンサはデータを生成する」というクレーム要件と、「データを生成する」という他の同様の限定とを特定した。
地方裁判所は、「イメージセンサがデータを生成する」という限定を含むことで、システムが組立てられた場合に侵害が発生するのか、それとも特定された機能を実行するためにシステムが用いられた場合に侵害が発生するのかが不明確になると述べた。
したがって、地方裁判所は、クレームが装置と当該装置を用いる方法との両方をカバーするので、クレームが不明確であり無効であると結論付けたのである。
CAFCに対して、アルティメイトポインターは、クレームがデータを生成可能なイメージセンサを有するハンドヘルド型デバイスを単に請求しているだけなので、クレームは不明確として無効とされるべきではないと主張した。
アルティメイトポインターは、729特許は当該機能のための十分な構造を記載すると述べ、CAFCはこれを支持し、729特許の権利行使クレームが不明確であるので無効であるとの地方裁判所の判断を破棄した。
CAFCは、「データを生成する」という要件は、ユーザの動作ではなくクレームの構造の機能を反映していると判断し、「データを生成する」という要件は、関連する構造がこの機能を有することを単に示しているに過ぎず、何らかのデータが実際にユーザによって生成されなければならないことを要求しているわけではないと述べた。
したがって、CAFCは、クレームが装置と方法との両方を請求する試みを反映しているのではなく、特定の機能を有する装置を請求しているとの結論を下した。
Key Point?この事件は、一つのクレームが装置とその装置を使用する方法のような2つの発明をクレームしていると思える場合の不明確性を議論した。装置とその装置を用いる方法を1つのクレームで言及することで、クレームの一部が不明確であると判断されたとしても、装置クレームが機能的文言を持っているだけでは必ずしも不明確にならないと判断された。