この事件においてCAFCは、KSR判決における自明性の基準を実証する判決を下しました。単純な機械技術のような予測可能な技術においては、先行技術における既知の構成要素を組み合わせることによって容易に特許発明を無効にすることが可能であることを明らかにしました。また、この事件でCAFCは、発明品の商業的成功を立証するだけでは必ずしも自明性の判断を覆すことはできないことを示しました。
KSR判決にそって特許発明の非自明性が否定された事例
東海事件において、CAFCは地方裁判所による自明性に基づく特許無効の略式判決を支持した。米国特許法第103条は、クレームに記載された発明は、その発明と先行技術との間の差異が、発明全体としてその発明時の当業者にとって自明な程度であるならば、特許されないと規定している。
略式判決の段階で自明性を判断するために、Graham 対 John Deere事件の最高裁判決で判示された自明性のマルチファクターテストを行った場合に、重要事実の真正な争点があってはならない。ここでいうマルチファクターとは、(i)先行技術の範囲と内容、(ii)先行技術とクレームされた装置との差異、(iii)当業者の水準、(iv)商業的成功あるいは侵害被疑者による模倣といった非自明性の二次的考慮事項である。
CAFCは、東海の主張する安全装置付き実用ライターをカバーする特許クレームの個々の構成要素を開示した先行技術の範囲とその内容に関する地方裁判所の評価に同意した。さらに、子供にも安全な実用ライターを製造する動機、(商業的)成功の予測可能性が高いこと、および、低い水準の当業者であっても製造できることは、KSR事件で確立された自明性の基準に該当する、と述べた。
争点の3つの特許のクレームは、実用ライターに関するものである。実用ライターは、バーベキューグリルやろうそくなどに離れて点火する場合に一般に用いられており、不慮の点火事故を防ぐ機構や子供に安全な機構を備えている。
東海はイーストンを提訴したが、イーストンは、地方裁判所のクレーム解釈に基づき、1つを除くすべての争点となっているクレームについて特許権侵害を認めた。そこで、東海は侵害の争点に関する略式判決を求めて提訴した。
一方、イーストンは、東海のクレームが4つの先行技術文献の組み合わせにより自明のため無効であると主張して反訴した。
地方裁判所は、「イーストンが主張する4つの先行技術文献(米国特許 Shike, Liang, Floriot 及び Morris)を考慮すると、クレームが自明であることについて、重要事実の真正な争点はない」と認定し、イーストンの主張を認める判決を下した。
特に、4つの文献のうち3件は、特許の審査段階で米国特許庁によって考慮されていたが、米国特許庁が引例Floriotを考慮しなかったという事実は「拡張された立証責任」がイーストンにはないことを意味していた。つまり、イーストンが特許の有効性の推定に反論する上で、米国特許庁の判断に従う必要はないのである。
控訴審においてCAFCは、地方裁判所の認定に同意し、先行技術の開示物や先行技術とクレームされたライターとの差異について、両者は争っていないと指摘した。
引例Shikeは安全装置の付いていない実用ライターを開示し、引例Liangは手動の安全装置を備えた実用ライターを開示していた。引例 Floriotは東海の安全装置を構成するすべての構成要素を備えたシガレットライターを開示しており、引例Morrisもロック解除機構を側面に備えたシガレットライターを開示していた。この機構は東海の主張クレームの1つである追加の要素であった。
当事者は当業者の水準について争った。CAFCは、地方裁判所がイーストンの提示した低い水準を用いて結論に至っているのであるから、東海が主張する、それより高い水準を用いて地方裁判所が異なる認定をすることはできなかったであろう、との見解を述べた。最終的にCAFCは、これは裁判における重要事実ではない、と結論付けた。
東海は、課題解決手段は予測できるものではなく、シガレットライターの安全装置を実用ライターに適合させるためには、シガレットライターの抜本的な設計変更が必要であると主張したが、CAFCはこれを認めなかった。KSR判決を引用し、裁判所は、シガレットライターと実用ライターは類似技術であり、より安全な実用ライターの必要性が確実に存在したことから、当業者であればシガレットライターの安全装置を実用ライターに組み合わせる動機付けがされたはずである、と指摘した。
さらに、クレームされた発明品を組み立てるために必要な構成要素が「当業者によく知られた単純な機構の部品」であるならば、その組み合わせは予測可能な結果を超えた発明をもたらすものではない、と述べた。
東海はさらに、非自明性の二次的考慮事項、すなわち、イーストンによる商業的成功と模倣といった事実を用いて自明性の認定を覆そうと試みた。しかしながら、商業的成功の証拠は、クレームされた発明と商業的成功との結び付きがある場合のみ判断に関与すべきものである。
もし商業的成功が先行技術内にある要素によるものであれば、クレームされた発明と商業的成功との結び付きはない。CAFCは、東海がライターの成功が独創的と称する自動的に安全という特徴のおかげであることを立証しておらず、したがって必要な結び付きを立証していない、と述べた。
CAFCはまた、商業的成功だけでは、必ずしもこの事件で認定されたような明白な自明性の強力な証拠を覆すことはできないとした過去の判例を引用した。模倣に関しては、イーストンによる模倣の事実を裏付ける証拠を東海が何も提出していないことから、CAFCはこの主張を退けた。
この判決によれば、機械関連の技術のような予測可能な技術において、クレームに記載された発明は、予測可能な結果をもたらす複数の引例から抽出された既知の要素を組み合わせるための動機が存在することを立証することによって、無効となりうるとしたKSR判決の判例を実証したものである。
Key Point?この事件においてCAFCは、KSR判決における自明性の基準を実証する判決を下した。単純な機械技術のような予測可能な技術においては、先行技術における既知の構成要素を組み合わせることによって容易に特許発明を無効にすることが可能であることを明らかにした。また、この事件でCAFCは、発明品の商業的成功を立証するだけでは必ずしも自明性の判断を覆すことはできないことを示した。