この事件では、連邦最高裁判決(Thryv対CTC事件)の前と後でIPRについてのCAFCの判断が逆転した。CAFC判断に対する連邦最高裁判決の影響力が判る好事例である。
Bennett Regulator Guardsは、ガス圧力制御器の氷結防止装置に関するUSP 5,810,029の特許権者である。2012年7月18日、Atlanta Gas Lightを特許侵害で訴えたが、地裁は管轄を理由にこの訴えを棄却した。1年後の2013年7月18日、Atlanta Gas Lightは同特許のIPRを申請した。PTABは、真の利害関係人である親会社(AGLR)の不記載を理由にIPR申請を棄却した。
Atlanta Gas Lightは2015年2月27日、029特許を対象とする、親会社AGLRを利害関係人として示した別のIPRをPTOに申請した。その申請がIPR請求の法定期間後でありIPRは認められるべきではないとのBennettの反対を退け、PTABは公知例に鑑みて029特許は自明であるとして特許無効を決定した。
上記のIPRが係属中にAtlanta Gas Lightの親会社が買収された。しかし、その事実はIPRを行っていたPTABに通知されなかった。この事実をIPR審決後に知ったBennettは、Atlantaに対する制裁発令(Sanction)を求めるモーションを提出し、PTABは金銭支払いによる制裁を認めた。両者はCAFCに控訴した一方で、PTABは制裁決定を確定させなかった。
CAFCは、本件のIPR申請が期限後の申請であるため拒絶されるべきであるとしてPTABの決定を破棄し、IPRの却下と制裁命令の検討を指示して事案をPTABに差戻した。しかし、PTABが差戻審を行う前に「Thryv対CTC事件」連邦最高裁判決(2020年)が出され、IPR申請期限に関する判断については控訴不能であることが確認された。このため、CAFCは最高裁からの差戻審において自明性の無効理由について審理し、PTABによる無効判断を支持する一方で、制裁命令の検討を指示して事件をPTABに差し戻した。PTABは、IPR申請期限に関するUSPTOの方針変更に沿うとともに制裁として十分かつ効率的であると説明して、IPR開始決定を取り消し、審理を終了した。Atlantaはこの決定を、制裁に関する裁量権の濫用であるとして、改めてCAFCに控訴した。
CAFCは、制裁決定はIPR申請期限に関連するものであり、この事案についての管轄権を持たないとして控訴を棄却した。