CAFC判決

CAFC判決

ADASA, Inc. v. Avery Dennison Corp.

CAFC, No. 22-1092 (December 16, 2022)

この事件でCAFCは、データ構造に特徴のある発明について特許適格性を持つ理由付けを説明するとともに、地裁における狭めの先行文献の解釈とは対照的に先行文献を広く解釈して、地裁による新規かつ非自明との判決を破棄した。

ADASAは、物流経路での商品の特定・追跡調査に使用されるRFIDタグに関する特許(9,798,967)の特許権者である。

ADASAは特許侵害でAveryをオレゴン地裁に訴えた。両当事者は、予審判事(magistrate)の判断が(上訴可能な)最終決定となることに同意するとともに、特許の無効・有効についての略式判決を求めるモーションを申し立てた。地裁は、原告の主張を受け入れ、係争クレーム全てについて先行技術(USP 7,857,221、文献(Dummies)、技術規格(EPC))を考慮して、101条、102条、103条の観点から特許有効との略式判決を下した。判決後、ADASAはクレーム1だけを分割審理するようモーションを申し入れ、地裁がそれを認めたため、陪審審理でクレーム1の侵害・損害賠償が認定された。その後、Averyはディスカバリーで開示していなかった侵害品が存在することを明かし、これに対してADASAは追加の賠償についてAveryと合意するとともに、Averyに対する制裁を裁判所に求め、裁判所は金銭的制裁を認めた。Averyはこの判決を不服としてCAFCに控訴した。

RFIDタグとしても知られているRFIDトランスポンダはバーコードと同様に、コンパクトなラベル内にデータを電子的に符号化しており、物品を識別し追跡するために使用される。RFIDタグは、商取引の流れの中でオブジェクトを識別し追跡することを容易にするために、「コミッショニング」として知られるプロセスを通して、オブジェクトに関連する情報で符号化される。

正確な追跡を保証するためには、タグ付けされたオブジェクトをデータで一意に識別できることが重要である。このような一意性は、RFIDタグに電子商品コード(EPC)を割り当てることにより保証される。EPCは、商品のブランド及び分類を特定するオブジェクトクラス情報に加えて、このブランド及び分類内にあるタグ付けられた商品を一意に識別するシリアル番号を含むことができる。同じブランドからの同じ分類のオブジェクトは同じオブジェクトクラス情報を共有するので、全体的なEPCの一意性を保証することはシリアル番号の一意性を保証することになる。

しかしながら、一意性を保証することは、必ずしも簡単ではなく、シリアル化には中央発行局の介在を必要とする。この特許は、トランスポンダごとに外部認証または問い合わせを行うことなく、しかも中央データベースへの継続的な接続を必要とせずに、コミッショニングを進めることを可能にする発明である。そして、この特許では、発明、特にデータフィールドを次のように特定した。

・RFID集積回路チップは一意のオブジェクト番号で符号化され、一意のオブジェクト番号はオブジェクトクラス情報空間と、一意のシリアル番号空間とを含み、

・一意のシリアル番号空間は、割り当てられたシリアル番号のブロックのうちの1つのシリアル番号インスタンスで符号化され、割り当てられたブロックには限られた数の最上位ビット群が割り当てられており、

・一意のシリアル番号空間は、割り当てられたブロックの限られた数の最上位ビット群に一意に対応する限られた数の最上位ビット群と、より下位の残りのビット群と、を含み、これらが一緒になって1つのシリアル番号インスタンスを含む。

Averyは、この発明はデータフィールドのサブセクションに対して意味を知的に割り当てるという抽象的なアイディアに向けられており、米国特許法101条の発明適格性を持たないと攻撃した。

CAFCは、以下のように認定し、発明の特許適格性を肯定した。

(1)この発明は、従来のデータ構造を利用する従来技術のRFIDタグと比較して、コミッショニングプロセスにおける遅延を低減し、接続を確立または再確立する必要なしに、タグがオンデマンドにコミッショニングされることを可能にする。

(2)最上位ビット群データフィールドの意味、およびこれにより得られる改善は、クレームされたRFIDタグに物理的に符号化されているデータと、予め認可されているシリアル番号のブロックとの間の、一意の対応関係の結果として得られている。

(3)これは単なる知的プロセスではなく、ハードウェアに基づくデータ構造であって、データが符号化される技術的プロセスに対する改善に注目しているものである。

以上のロジックでCAFCは、クレームのみならず明細書全体を検証し、発明が特許適格性を持つ主題事項に向けられていることを認め、発明の特許適格性を肯定した。

次の疑問は、新規性・自明性の観点からの特許の有効性である。

CAFCは、新規性・自明性の判断に関し、次のような含蓄に富む判決をした。先ず、新規性を否定するためには、クレームと同様の構成の開示が必要であるが、公知例に特許と全く同じ用語を用いて発明の要素が開示されている必要はない。そして、引例の教示が新規性の否定に不十分であれば、その同じ引例の教示が自明性の根拠となるか検討すべきである。

先行文献であるDummies(以下、先行文献)は、例えば、企業が同じ製品を生産するために複数の製造ラインを利用し、中央ナンバリング局がアクセス不可能である又はアクセスが不都合なときに、RFIDタグへの一意のシリアル番号の割り当てを確実にするための方法論を説明する。

また、先行文献はすべての製造ラインに固有のシリアル番号を分散して割り当てることを可能にするために、「インテリジェントな階層」を開示しており、これは「製品毎のシリアル番号の範囲を各製造設備に割り当てる」ことであり、「設備内では、設備に割り当てられた番号の範囲を各ラインに割り当てる」ことで、「設備番号、ライン番号、及びライン番号の間で割り当て階層が維持されるサブシリアル番号」を効果的に細分化することができる。

Averyに最も好意的に先行文献を読んだとしても、先行文献はこの発明の最上位ビット群を含むクレーム1の各要素を開示するものとして合理的に解釈することができる。すなわち、先行文献に開示されたシリアル番号は、製造ラインに固有の設備番号およびライン番号を含み、この設備番号およびライン番号は、必然的にライン上で生産される製品にわたって不変のままであることが記載されているのである。

こうして、CAFCは、特許の新規性・自明性を認めた地裁の略式判決を破棄し、陪審審理のために差し戻した。