この事件で最高裁は、控訴審が依拠した判例は出所表示機能についての判例ではなく、美術的な表現に適用されてきたものなので、その判例は商標権侵害を争う本件に適用できないとして、パロディー化したマークによる商標権侵害事件を判断した。
パロディー化したマークの使用による商標権侵害について争われた事件
Jack Daniel’s(原告)は、ウィスキー・ボトルの登録商標権者である。VIP Products(被告)は、Jack Daniel’sのボトルに似せた鳴声の出る犬用玩具を製造・販売している。この犬用玩具には、‘Bad Spaniels’, ‘The Old No. 2 On Your Tennessee Carpet’などのJack Daniel’sの商標をパロディー化したマークが使用されていた。
Jack Daniel’sはVIPに商標権の侵害を理由にした販売中止を申し入れた。VIPはそれに対抗して、地裁に確認訴訟を提起し、判例(Rogers v. Grimaldi判決, 875 F. 2d 994)によれば、文字商標の場合、①美術作品に関連する、②出所について明らかに誤認混同を惹起する―の2点の立証が必要であるのに、Jack Daniel’sはそれらを立証していないとして、商標権非侵害・希釈の不存在を主張した。
地裁は、VIPの商標権非侵害の主張を「商標の出所表示機能を盗用した」という理由でもって退けた。また、「パロディーはフェアユースである」との抗弁理由についても退け、フェアユースが認められるのは有名商標を被疑侵害商品に使用していない場合だけであるとその理由を述べた。VIPは第9控訴審に控訴した。
第9控訴審は地裁判決を破棄・差戻し、その理由を以下のように述べた。侵害問題についてRogers判例にもとづき再審理することを地裁に求め、希釈問題についてはBad SpanielsがJack Daniel’sをパロディー化したもので商標の希釈にはあたらないと認定した。地裁は差戻し審で、Rogers判例の要件を満たしていないと認定して侵害請求を退けた。この判決に対し改めて控訴されたが、第9控訴審は地裁の破棄判決を支持した。Jack Daniel’sは連邦最高裁に上告した。
最高裁は、第9控訴審の判決を全員一致で破棄し、事案を差戻した。その理由を次のように述べた。被疑侵害者が他人の商標の出所表示機能を被疑商品に使用した場合、Rogers判例の基準は適用されない。Rogers判例は長年、出所表示機能としてではなく、美術品など表現に適用されてきた。Bad Spanielsの使用が消費者の誤認混同を引き起こすかどうかの問題についてRogers判例の基準を適用することは適切でない。