CAFC判決

CAFC判決

Amgen Inc. 対 Sanofi 事件

Supreme Court, No. 21-757 (May 18, 2023)

この事件で最高裁は、標的タンパク質の特定のアミノ酸に結合する抗体のクレームに関し、26個の抗体のアミノ酸配列が開示されていても実施可能要件を満たさないとして、特許が無効であると判断した。

明細書において一部抗体がアミノ酸配列で特定されているが、他の抗体の特定が十分ではないので実施可能性要件不備として特許無効とされた事例

一般に悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールは体内分泌が増えすぎると動脈硬化の原因となり、心筋梗塞や脳梗塞などを発症させる。PCSK9は主に肝臓から分泌されるタンパク質で、LDL受容体に結合してそれを分解するため、血中のLDLコレステロールを上昇させる働きがある。そのため、PCSK9の機能を阻害する薬剤(PCSK9阻害薬)の開発が急がれた。

AmgenとSanofiは2011年、PCSK9阻害薬に使用される抗体に関する特許をそれぞれ取得した。これらの特許において、抗体は固有のアミノ酸配列で特定されていた。Amgenは2014年、PCSK9の特定アミノ酸に結合する全ての抗体をクレームする2件の特許を取得した。明細書では、26の抗体がアミノ酸配列で特定されている一方で、他の抗体は、抗体を特定するための「roadmap」、及び「conservative substitution」と呼ばれる方法で製造できる旨が記載されていた。

Amgenは新たに取得した特許2件を根拠にしてSanofiを特許侵害で提訴した。Sanofiは、Amgenの特許クレームに係る発明は試行錯誤(trial-and-error)によらなければ得られないものであり、実施可能ではないとして、特許法112条(a)に基づき特許無効を主張した。地裁はSanofiの特許無効の抗弁を支持し、CAFCも地裁判決を支持した。その理由として、特許を受けることのできる発明については当業者がそれを再現できる程度に詳しく明細書で記載しなければならないのに、係争特許には特定されていない抗体が多く含まれている点が挙げられた。事案は、連邦最高裁に上告された。

最高裁は以下の通り判決してAmgenの上告を退けた。Amgenの特許クレームには、アミノ酸配列により特定された26の抗体以外にも多数の抗体が含まれており、これらの抗体を得るためにはかなりの実験が必要である。Roadmapやconservative substitutionなどの手法は研究指針を示す程度のものにすぎず、依然として試行錯誤が必要である。下級審が「当事者に発明の再現を可能にするほど十分な記載がなされていない」と判決したことに誤りはない。