この事件でCAFCは、裁判の途中でPTABがIPR対象クレームの無効を決定したことなどによっても、特許侵害訴訟の提訴自体は不当ではなく、285条の例外的な事件にもならないと判断した。
裁判の途中でPTABがクレーム無効を決定したことなどに基づく弁護士費用の請求が否定された事件
FMCとOneSubsea IP UK (OSS)は、海底から採掘した原油と天然ガスを処理するツリー構造の搬送システムを使用するライバル企業同士である。OSSは同システムに関する特許群(7,111,687他9件)を保有し、2015年3月に10件の特許の95のクレームを侵害したとしてFMCをテキサス州東部地区連邦地裁に提訴した。FMCも自社特許2件の29のクレームが侵害されたとして反訴し、テキサス州南部地区連邦地裁への事件移送を申し立てた。また、FMCはOSSの特許ついてのIPRを申請し、3件の特許の全クレームについてIPRが開始された。
OSS特許は、搬送途中の原油を化学処理するためにツリー構造の送油管の流量を制限(divert limitation)する構造となっていた。裁判では、‘divert’の解釈をめぐりMarkmanヒアリングが行われた。Markmanヒアリングによるクレーム解釈命令がなされた後、FMCが非侵害の略式判決を求めるモーションを出し、OSSがそれに反対した。また、OSSはIPRが開始されたために訴訟進行を中止することが妥当であると主張し、一方でFMCは非侵害の略式判決を直ちに出すべきであると主張した。地裁は、USPTOのIPRの結果が出るまで裁判を停止し、略式判決についての判断を先延ばしした。
裁判はほぼ3年間停止し、その間にPTABはIPR申請のあったOSS特許の79のクレームを無効と決定した。地裁は審理を再開し、この際にFMCは非侵害の略式判決を求めるモーションを更新した。OSSは反論のために新たな専門家報告書を提出したが、この報告書は本訴訟における当事者間でのクレーム解釈に沿っていなかったために、証拠から排除された。そして、地裁はFMCから出されていた非侵害の略式判決を求めるモーションを認めた。FMCは、OSSが根拠薄弱の訴訟を提起し、訴訟を遅延させたとして特許法285条(例外的事件)にもとづく弁護士費用の救済を求めるモーションを提出した。しかし、地裁はこのモーションを最高裁Octane Fitness事件判決(2014年)の基準を適用して退けた。
FMCはCAFCに控訴。CAFCは地裁の判決を支持し、その理由を以下のように説明した。FMCは本件を例外的事件とみなす根拠として、(1)OSSの特許侵害の訴えがマークマン・ヒアリングでの用語解釈により根拠を失ったにもかかわらず訴訟を継続したことが不当であること、(2)OSSが提出した証拠が拒絶されたことはOSSの実体的な争訟性が弱いことを立証していること、(3)別件特許に対するIPRの結果を無視することなどにより訴訟を不当に延長させたこと、などを理由とする。しかし、この理由は当を得ない。クレーム解釈命令の後に地裁は略式判決の求めを否定して裁判を停止したのであって、請求の根拠が失われていたとは認められない。また、本件では侵害を立証する証拠が全く提出されていなかったわけではなく、1つの証拠が拒絶されたことのみに基づいて弁護士費用の救済が認められうることについて根拠ある先例は示されていない。その他の主張についても地裁の裁量行使に誤りがあったことを具体的に示すものではないし、最高裁判例の適用に誤りはない。