CAFC判決

CAFC判決

Grace Instrument Industries, LLC対Chandler Instruments Company, LLC事件

CAFC, No.21-2370 (January 12, 2023)

この事件でCAFCは、用語解釈の手がかりが明細書に記載されているにも拘わらず、地裁が辞書の定義に依って用語解釈したのは判例に基づく原則(内部証拠の優先)に反すると認定した。

判例に従って内部証拠を重視してクレームの用語解釈を行うことを強調した判決

 

原告のGraceは油田開鑿用ドリルに関する特許(7,412,877)を保有し、Chanderを特許侵害でテキサス州南部地区連邦地裁に提訴した。本特許のクレームは、用語”enlarged chamber”を含んでいたところ、地裁は、enlargedは程度を表す表現であり、比較対象なしにはこの用語は不明確であると判断した。被告は、目的・機能により”enlarged”の意味が決定される、その意味は公知例と比較して決定されるべきであると主張したが、地裁はその主張を退けた。最終的に、地裁は一部クレームの無効を判決した。原告はCAFCに控訴。CAFCはenlarged chamberについての地裁の解釈を破棄し、再審理するよう地裁に事案を差戻した。

CAFCは、「クレーム解釈は明細書の記載を含む特許全体から解釈される」との原則を指摘した上で、enlarged chamberの解釈上の手引き(guidance)が特許明細書に記載されているにも拘わらず、地裁は‘enlarged’の意味を辞書の定義に依って解釈しようとしたことを避難した。CAFCは、enlarged chamberは従来技術の計量誤差を無くすために取り付けられたものであり、その意味するところは明細書と審査経過の両方から明らかであると指摘した。CAFCは、地裁の解釈は、「内部証拠」(intrinsic evidence)ではなく「外部証拠」(extrinsic evidence)に依存した用語解釈であり、誤りである、明細書に当該用語の意味を解釈するための手がかり(guide)が記載されており、その理解は審査経過書類でも裏付けられている、と説明した。このように述べてCAFCは、地裁に対しCAFCの意見を考慮して再度審理するよう求めた。

CAFCの「Phillips 対AWH Corp.事件」大法廷判決(2005)において、特許クレームの解釈に際し、クレーム・明細書・包袋などの内部証拠が優先されるという判例が確立した。本件はその判例に準拠する典型的な事例である。