この事件でCAFCは、明細書が同一である関連特許に対するIPRで特許無効が確定したため、コラテラル・エストッペルにより実質的に同一のクレームを有する特許も無効であると判断した。
コラテラル・エストッペルに基づいて特許が無効と判断された事件
Hammondは、1個以上のアプリケーションソフトを遠隔操作できる通信装置を包含するコミュニケーション・システムに関連する2件の特許(9,264,483及び10,270,816)を保有する。両特許の明細書は同じ記載をもつ。
Googleは、483特許のIPRを請求した。PTABは、IPR対象のクレームが全て2件の先行例(GilmoreとDodrill)の組み合わせにより自明につき無効であると決定した。特に、独立クレーム18の内容は、GilmoreとDodrillの2件の公知例に開示されていると指摘した。Hammondはこの決定を受け入れPTABの無効決定は確定した。
Googleは816特許についてもIPRを請求し、483特許の無効資料であったGilmoreとDodrillの他に別の公知例を追加し、全てのクレームの無効を主張した。具体的には、独立クレーム14がGilmoreとCreamerの組み合わせにより自明なため無効であると主張し、独立クレーム18がGilmore, CreamerそしてDodrillの組み合わせにより無効だと主張した。IPRの結果、PTABは、クレーム1~13及びクレーム20~30をGilmoreとDodrillの組み合わせで自明であるとして無効を決定した。しかし、クレーム14~19については有効であると認めた。Googleは、PTABの決定を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、PTABの無効決定については支持したが、クレーム14とクレーム18の有効との決定についてはPTABの決定を破棄した。破棄理由をCAFCは次のように述べた。Googleの主張は、816特許のクレーム18と483特許のクレーム18は実質的に同一なのでコラテラル・エストッペル(collateral estoppel)が適用され、483特許のクレーム18が無効とされているので、816特許のクレーム18も無効である。さらに、816特許のクレーム18が無効であれば不則不離の関係にある同特許のクレーム14も無効になることをHammondとGoogleの双方が認めているので、クレーム18が無効であれば、クレーム14も無効となる。それ以外の従属クレーム(クレーム15~17及びクレーム19)については、Googleがcollateral estoppelの立証を十分に行っておらず、PTABの決定を覆すまでには到らない。
collateral estoppelとは、同じ争点について前訴の裁判所判断に反する主張を後訴で行うことはできないとするアメリカ法の考え方である。本件の場合、IPRで483特許のクレーム無効が確定しているので、816特許で同じ争点を争うことは認められないと判断された。両特許の明細書の記載が同一であったことが、collateral estoppelが適用された理由の1つになっていると思われる。