この事件でCAFCは、特許法は発明者を自然人に限定しており、AIを発明者とする特許出願は有効な発明者を記載していない出願であるとして、出願を否定した特許庁の決定及び地裁の判決を支持した。
AIを発明者として記載した特許出願の拒絶を支持したCAFC判決
Thaler は、人工知能システム「DABUS」(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)を開発し、米国で2件の特許出願を行った。外国でも対応特許出願を行った。Thalerは、DABUSが自然人と同じように意識を備えた存在であるとの考えから、明細書にはDABUSを単独発明者として記載し、出願書類に、①DABUSを代理する旨の宣誓供述書、②DABUSが「創造マシン」であるとする追加供述書、③DABUSの権利を自分に譲渡する旨の譲渡契約―を含めた。
PTOは方式審査でこの特許出願を拒絶した。ThalerはPTOによる審査の見直しを求めたが、PTOは「機械は発明者たり得ない」として特許出願を拒絶した。Thalerは「行政手続法(APA)」に基づき地裁に対しPTO決定に対する不服の申立てを行った。地裁は、特許法上発明者は自然人に限られているとして出願人の申立てを退けたため、ThalerはCAFCに控訴した。
CAFCはPTOの決定を支持し、その理由を次のように説明した。特許法は発明者を「個人(individual)」によるものと規定しているがその定義ははっきりしていない。しかし、それが「自然人(natural person)」つまり人間であることは最高裁の判例からも明らかである。AIも産業政策の観点から発明者適格とすべきだとするThalerの主張について、それはAIのもつ「推測的な」効果にすぎないとして退けた。
なお、USPTOは2020年10月、Public Views on Artificial Intelligence and Intellectual Property Policyを発表し、「自然人がAIを道具として利用した場合、つまり、自然人の発明の着想にAIが貢献した場合、その自然人が発明者と認定されることは否定されない」と指摘した。これは必ずしも自然人以外の発明を否定しない。本件はそのような背景で争われたものである。なお、欧州特許庁は2021年12月21日、EPO審判部が人工知能DABUSを発明者とする2件の特許出願を拒絶した旨をプレスリリースで公表している。