この事件でCAFCは、カリフォルニア地裁における弁護士費用の弁済を認める一方で、デラウエア地裁及びIPR手続きのための弁護士費用の弁済を認めなかった地裁決定を、地裁の裁量の範囲内であるとして支持した。
地裁が有するエクイティー(衡平法)上の裁量に基づき、弁護士費用の支払いを命じた地裁判決を支持したCAFC判決
Realtime(原告)は6件の所有特許が侵害されたとしてNetflix(被告)をデラウエア地裁に提訴した。被告はカリフォルニア地裁(北部地区)への事件移送を求めたが、原告は不公平な負担を強いることになるという理由からカリフォルニア州への事件移送に反対した。被告は侵害訴訟係属中に、係争特許が特許法101条の下で特許無効であるとしてPTOにIPRを申請し、PTOはIPRの開始を決定した。
被告は地裁に訴状棄却のモーションを申し立てた。地裁の下級判事が一部クレームを無効と認め、原告に訴状の取り下げを勧告した。原告は地裁の判決前に被告に対する侵害訴訟を取り下げた。しかし、訴訟取下げの翌日、原告はNetflixを被告とする同一特許の侵害訴訟をカリフォルニア地裁(中部地区)に提起した。これに対抗して被告は、カリフォルニア地裁に「弁護士費用の弁済」と「デラウエア地裁への事件移送」を求めるモーションを申し立てた。しかし、モーションについての地裁決定が出される前に、原告はカリフォルニア地裁の訴訟を取り下げた。
被告は「カリフォルニア地裁で生じた弁護士費用」、「取り下げられたデラウエア州地裁での弁護士費用」及び「PTOでのIPR手続きに対する弁護士費用の弁済」を求めるモーションをカリフォルニア地裁に申し立てた。地裁は、カリフォルニア地裁での弁護士費用の弁済は認めたものの、デラウエア地裁の弁護士費用とPTOのIPR手続きのための弁護士費用の弁済については認めなかった。被告は、地裁の裁量の「濫用」(abuse)であると主張してCAFCに提訴した。
CAFCは、地裁の判決が裁量の濫用には当たらないとして地裁の判決を支持し、その理由を次のように説明した。地裁は衡平法(equity)に基づく裁量をもっており、カリフォルニア地裁での弁護士費用を認めたのはその裁量行使である。デラウエア州地裁の審理やPTOでの関連手続きのための費用弁済を認めなかったのも地裁の裁量の行使である。いずれの判断も地裁の衡平法上の裁量の濫用にはあたらない。
なお、米国の特許侵害訴訟で弁護士費用の弁済は「例外的」な事件の「勝訴当事者」に限定される(特許法285条)。本件では、特許法ではなく、衡平法上の地裁の裁量の問題として議論されている点が注目される。