CAFC判決

CAFC判決

LG Electronics Inc.対Immervision, Inc. 事件

CAFC No. 21-2037 (July 11, 2022)

この事件では、間違った先行文献の記載が先行技術を構成するかどうかが争われた。IPR手続きにおけるUSPTOの審判部も、CAFCも、明瞭な記載間違いは開示の根拠にならないと判示した。

誤りが明瞭な先行技術は公知例として使えないことを明確にしたCAFC判決

Immervision, Inc.はUSP 6,844,990の特許権者である。この特許のクレーム5には、レンズの特性が、「画像の中心と周辺を縮小し、中間部を拡大する」)ことを特徴ととしている。

LGは、990特許のクレーム5とクレーム21が自明であるとして2件のIPRをUSPTOに申請した。無効理由としてLGが引用したのがUSP 5,861,999(引例)であり、クレームの無効理由に当てた引例の表5には、米国出願の際の転記ミス(エラー)により表3のデータが入っていた。

このようなエラーをIPRは、引例の該当箇所が明瞭な間違いであり当業者はそれを無視するか、そのエラーを修正するであろうと認定した。そこで、LGはIPRの認定を不服として取り消しをCAFCに求めた。その根拠をLGは、50年前のYale判決に求めた。

事実関係を洗えば次のようになる。

<LGの主張>

LGが証拠として挙げたのは米国特許第5,861,999 (Tada)であり、この米国特許の基礎出願は特願平9-201903(特開平10-115778)である

米国特許の実施例3とその表5のレンズデータに基づいて、Chipman博士に計算を依頼した。

Chipman博士の計算によると、実施例3と表5のレンズデータに基づくレンズは、「画像の中心と周辺を縮小し、中間部を拡大する」特性であることが分かった。

ImmerVisionの主張>

専門家であるAikens氏は、次の2点に気づいた。

(a)米国特許第5,861,999(Tada)の実施例3の表5の非球面係数と実施例2の表3の非球面係数が全く同じである。

(b)米国特許第5,861,999(Tada)の実施例3の表5の非球面データと、基礎日本出願:特開平10-115778の実施例3の表5の非球面データが異なっている。

(c)基礎日本出願の実施例3の表5の非球面データが正しく、米国出願の際に、表5に間違えて表3のデータが記載されている。

(d)基礎日本出願の表5のデータを用いて計算したところ、Tada記載のレンズはクレーム5の要件を満たさなかった。

このような事実を背景に先例であるYale判決をCAFCは考慮した。Yale判決では、記載の明瞭な間違いを当業者が直ちに認識できることを前提に、そのような記載エラーに基づく開示を否定している。

CAFCはPTABの決定を支持し、その理由としてPTABは、2件のIPR申請の理由となった公知例の記載内容について、当業者がそれをほとんど問題視していないこと、明細書の記載が訂正できる程度の軽微な誤りであったことを挙げた。すなわち、公知例の開示箇所を具体的に特定して当業者であればそれが明らかな誤植(転記ミス)であると判断するであろうと判断したPTABの見解は適切である。たとえその誤りを発見するのに時間がかかったとしても、誤りそのものは明らかに軽微である。また、当業者がエラーに気づき誤りを訂正して読むであろう場合、誤っていた情報が発明を開示しているということはできない。本件IPRにおいて、対象クレームが自明であり特許性がないことをLGは立証していないことを根拠にCAFCはIPRの決定を維持した。

この判決で重要なことは、誤りが明瞭な先行技術は公知例として使えないことである。

なお、この判決は全員一致の判決ではない。明細書の記載エラーの発見に専門家鑑定者が実験と計算に長時間を要したことに鑑み、本件のエラーが誤植か、それと同等のエラーと認定した多数意見には賛同できないとするNewman判事の少数意見がある。