CAFC判決

CAFC判決

Niazi Licensing Corp. 対 St. Jude Medical S.Co., Inc. 事件

CAFC, No. 21-1864 (April 11, 2022)

クレームで発明を表現するとき全て明瞭な文言を使用できず、例えば、弾性のある、柔軟などの程度を表わす文言で発明を表現することがある。本判決において、クレーム文言だけに注目すれば明瞭ではない文言を含む発明でも、明細書の記載(内的証拠)からその文言の意味を理解できる場合には、クレームは明瞭であり、特許は無効にならないとCAFCは判断した。本判決は、クレームが明瞭であると認定されるロジックを示しているので、この点に注目して本判決を紹介する。

クレームが明瞭か不明瞭かの評価プロセスをロジカルに論じ、クレームの文言のみならず、明細書の記載を参照してクレームの明瞭性を認めた判決

Niaziは、うっ血性心不全の治療のためのカテーテルに関する米国特許第6,638,268号の特許権者ある。この特許は、形状記憶したフック形状の遠位端を有する弾力性のある外側カテーテルと、外側カテーテル内に摺動可能に配置され、外側カテーテルよりも長い柔軟な内側カテーテルとを有する二重カテーテルに関する。

Niaziは、ミネソタ連邦裁判所においてSt. Judeに対し特許権訴訟を提訴した。しかし、クレーム中のresilient outer catheter, pliable inner catheterのresilient(弾力性のある)、pliable(柔軟な)の文言がクレームを不明瞭にすることを根拠に、裁判所はクレームを無効にした。そこで、Niaziはこの判決をCAFCに控訴した。

CAFCは、判決において、以下のように明確性の要件について説明した。

まず、明瞭性の要件は特許のための法定要件である。米国特許法112条(a)項は、出願人が発明と信じる発明を明瞭に簡潔にクレームに記載しなければならないと述べている。

この明瞭性の要件に関する先例であるNautilus, Inc. 対 Biosig Instruments, Inc.最高裁判決(572 U.S. 898, 901 (2014))は、明細書と出願の経緯に鑑み、合理的な確実さで、当業者に発明の範囲を語れないときのみ、そのクレームは不明瞭であると判示している。クレームは特許発明と自由技術との客観的な境界を設定するためのものであるが、明瞭性の要件を満足するために、発明を数学的な精密さでクレームに記載する必要はない。記述的な文言(または程度を表す文言)は数学的な精密さをもつクレームより必然的に広くなるが、クレームが広いという理由だけで、そのクレームが不明瞭になるわけではない。クレームで記述的な文言を使ったことにより、当業者にそのクレームが合理的な確実性をもってクレームの範囲を知らしめることに失敗している場合に、クレームは不明瞭とされるのである。

一方で、クレームにおける程度を示す文言は、内部証拠がクレームの客観的な境界を示す十分なガイダンスを与えない場合、例えば、クレームが純粋に主観的であり、クレームの範囲を合理的な確実性をもって決定できない場合には、クレームを不明確にする。

結局のところ、記述的な文言または程度を表す文言を含むクレームが明確であるためには、発明の文脈において、客観的な境界を当業者に示さなければならない。そして、クレーム、明細書の記載、及び審査結果のような内部証拠、及び関連する外部証拠が、クレーム範囲の客観的な境界を特定するために役に立つのである。

本件のクレームにおいて、「弾力性」という文言に関し、クレームには「外側の、形状記憶を有し、弾力性のあるカテーテル」と記載されている。ここで、クレーム1には「形状記憶」、クレーム13には「十分な硬さ」と書かれているように、クレーム自体が「弾力性」の意味についてのガイダンスを与えている。また、多くの従属クレームも、弾力性のある材料の例を示すことにより「弾力性」の意味を知らせている。また、明細書にも、同様のガイダンスが示されている。

本件のクレームにおいて、「柔軟な」という文言に目を向けると、クレームは「外側カテーテル内に摺動可能に配置された内側の柔軟なカテーテル」と述べており、クレームの文言は柔軟の意味についてあまりガイダンスを提供していない。しかし、明細書には「柔軟な」インナーカテーテルの多数の例が記載されている。例えば、明細書は弾力性のある外側のカテーテルに対して、内側のカテーテルは「シリコンなどの柔らかい素材を使用」、内部カテーテルには「縦方向の編組がないため、非常に柔軟で順応性が高い」と説明している。したがって明細書は、柔軟な内側カテーテルに使用できる代表的な材料を提供し、内側カテーテルが外側カテーテルよりも柔軟であることを説明していることになる。

このように、明細書全体を見れば、内部証拠は、「弾力性」と「柔軟性」に関する不明瞭さを解決するために十分であるとCAFCは理解した。そして、文言の不明瞭さの主張を明細書中の1つのセンテンスである「内側カテーテルと外側カテーテルの両方が心臓での操作中にそのような形状を維持するために、所定の形状とある程度の剛性を備えていることが望ましいが、必要に応じて曲げるのに十分な柔軟性を備えている。」に頼ったSt Judeの主張を否定した。むしろ、当業者が明細書全体を読めば、「弾力性のある」外側カテーテルと「柔軟な」内側カテーテルの違いを容易に理解でき、カテーテルが「弾力性のある」または「柔軟」かどうかを判断するための客観的な境界を明細書が与えていると論じた。結論として、CAFCは、内部証拠及び外部証拠に照らして読めば、「弾力性」「柔軟」という用語は発明の範囲について当業者に合理的な確実さをもって知らしめているとして、クレームが不明瞭であるとの第一審の判決を否定した。