CAFC判決

CAFC判決

SpeedTrack, Inc 対 Office Depot, Inc. 事件

No. 2014-1475,2015,9,30-Jun-15

先の判決で非侵害と認定された製品はその後の侵害訴訟でも非侵害と認定されること(ケスラー原理)を確認した事例,この判決は、様々な企業に対して同じ特許権を続けて行使している特許権者からの特許権侵害主張に直面している企業にとって、ケスラー原理が有用であることを浮き彫りにした。ケスラー原理は、先行する地方裁判所の訴訟が非侵害により終結した場合に価値のあるツールとなる。

先の判決で非侵害と認定された製品はその後の侵害訴訟でも非侵害と認定されること(ケスラー原理)を確認した事例

スピードトラック(SpeedTrack, Inc.)は、米国特許第5,544,360号(360特許)の特許権侵害を主張して、とりわけオフィスデポ(Office Depot, Inc)に対して訴訟を提起した。

360特許は、ソフトウェアユーザによって規定された特定のカテゴリー記述に従って、コンピュータ・ファイリングシステム内のファイル及びデータにアクセスする方法を規定する。これらのカテゴリー記述は、ファイル情報ディレクトリを通じて特定の格納ファイルにリンクされる。サーチフィルタは、カテゴリー記述をサーチフィルタ記述に合致させ、ファイルに効率的にリンクする。カテゴリー記述は様々に定義可能な方法でリンクされうる。

スピードトラックは、オフィスデポに対する訴訟に先立って、ウォルマート(Walmart)に対する特許訴訟に携わっていた。ウォルマートのウェブサイトでは事前に定めてあるカテゴリー記述に基づいた製品選択が可能であったので、スピードトラックはウォルマートによる360特許の特許権侵害を主張した。

エンデカ(Endeca Technologies, Inc.)は、自身のソフトウェアをウォルマートにライセンス許諾しており、ウォルマートのウェブサイトでカテゴリーによるサーチが可能なのはこのソフトウェアのおかげであった。従って、エンデカは、自身のソフトウェアを防御することを目指して、ウォルマートに対する訴訟に参加し、自身のソフトウェアが非侵害であり、360特許が無効であることの確認判決を求めた。

エンデカ及びウォルマートは、非侵害の略式判決の申立てを提出し、エンデカの被疑ソフトウェアは「カテゴリー記述」というクレーム要件を充足し得ないと主張した。エンデカのソフトウェアは、「カテゴリー表現」という文言の解釈に必要な名称を含む記述とは反対に、格納ファイルの数値表現を用いていた。

地方裁判所は略式判決を求める申し立てを認め、数値識別子は360特許のクレームに係る「カテゴリー記述」という文言を充足し得ないと論じた。2012年3月30日に、地方裁判所は、非侵害の最終判決を登録した。CAFCは、控訴審においてこの判決を支持した。

ウォルマートの訴訟の間、オフィスデポに対する事件は中断されていた。この期間に、エンデカはオラクル(Oracle Corporation)によって買収された。地方裁判所は、既判力の理論及び最高裁判所によるケスラー事件(注2)の原理の下で、オフィスデポに対して略式判決を認めた。スピードトラックはこの判決に対して控訴した。

控訴審において、スピードトラックは、地方裁判所がケスラー原理を適用したのは誤りであると主張した。ケスラー事件は、ある特許権について売主が非侵害の判決を得た場合に、同じ特許権に基づいてその売主の顧客に対して特許権侵害訴訟を起こすことを禁じている。特に、勝訴当事者の製品は、将来の目的についても非侵害の状態を獲得する。

このような当事者には、同じ特許権に関する以後の侵害訴訟の心配をせずに製品を製造販売する権利が付与される。ケスラー事件によれば、エンデカのソフトウェアがウォルマート事件で非侵害と判断され、スピードトラックが同じソフトウェアを訴えているので、(エンデカの承継人としての)オラクルは、スピードトラックによる干渉を受けない権利を保有していた。

スピードトラックは、3つの主張を行うことによって、自身の状況をケスラー事件と区別することを試みた。第一に、ケスラー原理は、オフィスデポのような顧客ではなく、製品の製造者または供給者によってのみ行使されうるとスピードトラックは主張した。

CAFCでは、この争点について意見が分かれた。CAFCは、ケスラー原理に対する論拠は、特許権者が不都合な判決を台無しにするために顧客に対して再び訴訟を起こすのを防ぐことであると論じた。この論拠に基づいて、CAFCは、顧客は侵害主張の防御としてケスラー原理を主張できるべきであると判断した。

第二に、製造者の部品が後で組み込まれて侵害製品が製造される場合にケスラー事件は適用されないとスピードトラックは主張した。スピードトラックは、この主張の根拠として、Rubber Tire Wheel Co.対Goodyear Tire & Rubber Co.事件(232 U.S. 413, 1914)に依拠した。

Rubber Tire事件で、グッドイヤーは、グッドイヤーのタイヤデザインに対する特許権侵害訴訟の被告として勝訴した。訴訟の後に、グッドイヤーは顧客にゴムを販売し、顧客はそのゴムで非侵害の自身のモデルのタイヤを製造した。

最高裁判所は、ケスラー原理での権利は特定のタイヤにのみ付与され、後にタイヤに変わったゴムには付与されないと判断した。CAFCは、スピードトラックの訴訟が以前の事件で非侵害と判断されたのと同じソフトウェアの使用を対象とするので、Rubber Tire事件は適用されないと結論付けた。

最後に、ケスラー事件は時代遅れであり、近年の除外原理に置き換わっているとスピードトラックは主張した。

CAFCはこの主張を退け、ケスラー事件は争点及び請求除外を補うと判断した。例えとして、CAFCは争点及び請求除外は、最初の訴訟の判決の後で行われた侵害行為に限定する場合に、製造者に対して実際に訴えられていないクレームに基づいて顧客を訴えることを妨げるものではないことをあげた。

Key Point?この判決は、様々な企業に対して同じ特許権を続けて行使している特許権者からの特許権侵害主張に直面している企業にとって、ケスラー原理が有用であることを浮き彫りにした。ケスラー原理は、先行する地方裁判所の訴訟が非侵害により終結した場合に価値のあるツールとなる。