特許の実施権者が、特許の侵害に対する訴権を有するためには、「実質的な特許権者」と見なされるための条件を満たす必要があります。具体的には、訴訟を提起する権利やサブライセンスをする権利など、すべての実質的な権利が特許権者から実施権者に移転されている必要があります。そうでなければ、実施権者は、侵害訴訟を単独で提起できず、特許権者と共同で行なわなければなりません。
訴訟における実施権者の当事者適格の要件について言及
Sicom Systems事件の判決は、実施権者が、侵害訴訟を提起するために必要な、特許における「すべての実質的な権利」を有することの要件について言及している。すなわち、実施権者が、訴訟を開始する法的権利、つまり、「当事者適格」を有する「実質的な特許権者」であるか、について言及している。
1998年に、Sicom Systemsは、「アイ・パターンを使用してデジタル通信の状態を自動的に監視する方法」と題された、米国特許第5,333,147号(以下、「147特許」と呼ぶ)についての独占的な実施権をカナダ政府から取得した。
その実施権によって、Sicom Systemsは、以下に列挙する権利を含む多数の権利を取得した。(1)特許された技術の下で活動を続けること。(2)求められたサブライセンスを拒否すること。(3)さらなる開発に対する契約の機会。(4)Sicom Systemsによって開発されたあらゆる改良や修正のサブライセンス。(5)商業的な侵害を除き、147特許の侵害に対して訴訟を提起すること。
2003年に、Sicom Systemsは、Agilentが147特許を侵害したとして提訴した。地方裁判所は、当事者適格の欠如を理由に、この訴えを退けた。そこで、Sicom Systemsとカナダ政府は、実施権の修正を行い、Sicom Systemsが147特許の商業的な侵害に対して訴訟を提起することを明示的に認めた。
しかしながら、修正の下でも、政府や大学のような非営利団体に対して訴訟を提起する権利は、カナダ政府が維持した。
続いて、2003年に、Sicom Systemsは、Agilentに対して2度目の訴訟を提起したが、地方裁判所は、次のように判断した。つまり実施権に対する修正は、訴訟を提起する当事者適格を持つために必要なすべての実質的な権利を、依然としてSicom Systemsに与えていないと。そして、地方裁判所は、Sicom Systemsの訴えを、理由なしとして棄却した(すなわち、Sicom Systemsによる更なる訴訟をすべて禁止した)が、これに対しSicom Systemsは控訴した。
控訴審における重要な問題は、実施権者としてSicom Systemsに移転された権利に基づいて、Sicom Systemsは侵害に対して訴訟を提起する当事者適格を有する「実質的な特許権者」であるか否かであった。
特許法の下では、特許権者は特許権の侵害に対して訴訟を提起することが出来る。もし特許権者が特許に基づく「あらゆる実質的な権利」を移転すれば、一種の譲渡が発生し、譲受人は、自身の名前で侵害に対して訴訟を提起する当事者適格を有する「実質的な特許権者」であると見なされうる。
それゆえ、特許法の下では、特許権者または譲受人が侵害訴訟を提起することが出来るが、実施権者は通常、単独では提起することが出来ない。しかしながら、ライセンスが特許における「すべての実質的な権利」を移転していれば、独占的な実施権者は、当事者適格を有する譲受人として扱われうる。
Sicom Systemsの事件で、CAFCは、「すべての実質的な権利」を次のような権利であると定義した。すなわち、「〔特許法〕の下で、実施権者または譲受人が実質的な特許権者であると見なされるのに十分な」権利である。CAFCは、どの権利が移転されたかに基づいて実施権者の分類を説明し、それぞれの分類ごとに訴訟を提起する当事者適格を説明した。
これによって、CAFCは、契約がすべての実質的な特許権のうちすべてを移転しているか、それ以下しか移転していないかという問題を、明確にした。
譲受人は一般的に、特許が特許権者に認めるすべての権利を保持するため、譲受人は常に訴訟を提起する当事者適格を有すると、CAFCは結論付けた。CAFCの合議体はさらに、どの権利が独占的な実施権者に提供されているかに依存して、独占的な実施権者は、実質的な権利を有する場合も有さない場合もあると判断した。
例えば、独占的な実施権者が排除したり訴訟を起こしたりする独占権を有するか否かは、特許におけるすべての実質的な権利が移転されたか否かという問題を左右する。
さらに、独占的な実施権者が特許をサブライセンスする権利を許諾されているか否かは、独占的な実施権者がすべての実質的な権利と訴訟を提起する当事者適格を有するか否かを左右する。
本件では、カナダ政府が非営利団体に対して訴訟を提起する権利を保持し、Sicom Systemsは営利団体に対して訴訟を提起する権利を保持していた。訴訟を提起する権原が分割されており、Sicom Systemsは特許をサブライセンスすることが出来ないという事実があるということは、地方裁判所の結論を支持する証拠になるとCAFCは判断した。
地方裁判所の結論は、SicomはAgilentに対して訴訟を提起する当事者適格を有しておらず、Sicom Systemsは特許におけるすべての実質的な権利を保有してはいないというものであった。
CAFCは、次のように結論付けた。つまり、本件において実施権の契約は、特許における「すべての実質的な権利」以下のものしか移転していないため、Sicom Systemsはカナダ政府と共同でなくては訴訟を提起することが出来ないと。
さらに、Sicom Systemsは「当事者適格を確立するために2度の挑戦を行い、2度の失敗をした」と結論付けて、CAFCは、請求理由なしとして請求を棄却し、Sicom Systemsがそれ以降もAgilentに対して訴訟を提起することを禁止した。
Sicom Systemsの事件では、侵害者に対して訴訟を提起する当事者適格を有する、特許法の下での「実質的な特許権者」として、独占的な実施権者が見なされうる状況について、CAFCは説明した。
Sicom Systemsの事件でCAFCが強調しているように、独占的な実施権者がすべての実質的な権利以下の権利しか保持していない場合は、侵害訴訟の際に特許権者を含めなければならないのである。