IDS提出されなかった文献と特許との関連性を不正行為の認定に使った判決,この事件においてCAFCは、特許の化合物が自明ではなく、特許権者に不正行為を認めなかった地裁判決を支持した。特許権者が特許性に影響を与える重要文献を意図的にPTOへ開示しなかったとする不正行為を立証するためには、文献の特許との関連性を立証するだけではなく、PTOを欺く意思があったことを示す明瞭かつ説得力ある証拠の必要性を明らかにした。
IDS提出されなかった文献と特許との関連性を不正行為の認定に使った判決
この係争は、ハッチ・ワックスマン法という、ジェネリック医薬品の製造者に対し、ジェネリック医薬品の販売許可を受ける前に過去に登録された特許の有効性を争う権限を与える法律に基づいて提起されたものである。
争点の薬品はCrestor?(以下クレスター)という製品名の「スタチン」であり、コレステロールおよびアテローム性動脈硬化症の抑制に使用する用途で認可されている。争点の314特許は440特許からの再発行特許である。特許権者は塩野義製薬株式会社(以下、シオノギ)であり、その独占的ライセンシーはアストラゼネカの関連会社であった。
クレスターの有効成分はロスバスタチンとして知られる化合物のカルシウム塩である。ロスバスタチンは、ある酵素を阻害することにより、肝臓内でのコレステロール生成を抑えるスタチンの一種である。
シオノギの日本人研究者達がロスバスタチンに効力があり副作用が少ないことを発見し、彼らは日本および諸外国において米国の314特許を含む特許を取得した。薬品は開発から20年後の2003年に米国において販売認可され、販売は大きな成功を収めた。
数社のジェネリック薬品会社は、ハッチ・ワックスマン法に基づく制定法上の侵害行為である、医薬品簡略承認申請(ANDA)を提出することにより314特許の有効性を争った。シオノギおよびアストラゼネカが提訴した後、地方裁判所は、314特許は有効で権利行使可能であり、特許侵害有りとの判決を下した。
控訴審において被告らは、クレームされた薬剤化合物は、サンド(Sandoz)のヨーロッパ特許公報に公開された非常に類似したスタチン化合物から自明であったと主張した。
両社の化合物の唯一の違いは、サンドの分子はその側鎖の一つに、メチル基(|CH3)ではなくスルホニル基(|SO2CH3)を持っていたことであった。さらに、サンドの公報は「特に好ましい発明の実施例」として化合物を記載していた。
被告らは、これをさらに研究することにより「リード化合物」を作ることは自明であり、側鎖にスルホニル基を加えることを「試みることは自明であったと思われる」と主張した。
CAFCは、クレームされた化合物はサンドの公報を考慮しても自明ではないと判示し、「試みることが自明」という論理的根拠は、特定の種類のスタチンに関するサンドの文献における一般的疑念により否定されていると判示した。
その一般的疑念とは、他の製薬会社がその研究を中止しており、スルホニル基は疎水性なので、先行技術はスルホニル基を加えることを除外していたという事実によるものである。
CAFCは、自明性の認定には既知の化合物を特定の方法で改良すべき理由を示すことが必要であるとさらに述べた。
被告らはさらに、シオノギの2名の社内特許弁理士が、バイエルの日本特許出願、サンドの文献、およびサンドの文献を「単独で非常に関連する」と示したサーチレポートの3つの先行技術文献を米国特許庁へ開示しなかったことにより不正行為を行ったと主張した。
アストラゼネカとシオノギが440特許のライセンス交渉を始めたとき、アストラゼネカはこれらの文献が米国特許庁へ提出されていないことを懸念し、未開示の先行技術を開示するために再発行特許出願が提出された。
シオノギは、これらの文献は誤って開示し忘れていたものであるが、開示しなかったことは意図的ではなかったと証明した。再発行特許出願手続きにおいて、クレームはバイエルの文献により自明であるとして拒絶され、その応答時にシオノギはクレームをロスバスタチンとその塩に限定する補正をした。
不正行為の立証には、未提出の引例が特許性に重要な関連性があった(換言すると、その文献が開示されていたら特許付与されなかったはずである)こと、および明確なPTOを欺く意思があったことを示す明瞭かつ説得力ある証拠を被告は示さなければならない。
被告はサンドとバイエルの文献が「重要な」先行技術であることは立証したが、欺く意思の立証には失敗したと、CAFCは認定した。
バイエルの文献内にロスバスタチンが「含まれていた」ことを理由に「ロスバスタチンの開発情報を外部へ漏らしてはならない」と書かれたシオノギの内部文書を被告は提示していたが、CAFCは欺く意思はなかったと認定した。
CAFCは、欺く意思が、証拠から導き出される「唯一の最も合理的な推定」であることは証明されなかったと判示したのである。
出願を担当した特許弁理士は出願直後に会社を退職し、その後任者は、前任の弁理士がそれらの重要な先行技術を既にPTOへ提出済みであると誤解した、という特許権者の説明をCAFCは信用した。CAFCは、これは「一連の不運と誤解」によるものであり、欺く意思ではないと結論付けた。
ロスバスタチン事件は、医薬分野のように予測不可能な技術分野においては、クレームされた化合物を自明とするためには、先行技術が既知の化合物を改良する理由を示していなければならないことを明らかにしている。この判決は、CAFCが、特許権者による不正行為を断定する前に、高度な水準の欺く意思を要求していることも示した。
Key Point?この事件においてCAFCは、特許の化合物が自明ではなく、特許権者に不正行為を認めなかった地裁判決を支持した。特許権者が特許性に影響を与える重要文献を意図的にPTOへ開示しなかったとする不正行為を立証するためには、文献の特許との関連性を立証するだけではなく、PTOを欺く意思があったことを示す明瞭かつ説得力ある証拠の必要性を明らかにした。