CAFC判決

CAFC判決

RAI Strategic Holdings, Inc. 対 Philip Morris Products S.A. 事件

CAFC No. 2022-1862 (February 9, 2024)

この判決でCAFCは、クレームの記載不備(112条)を判断したPTABのIPR決定を覆した。この事件においては、クレームに記載の数値範囲がより狭く、明細書ではより広い数値範囲が記載されているのみであった。

明細書に明示的に記載されていない数値範囲のクレームについて、記載要件を満たすと判断した事件

RAIは電子式無煙タバコに関する特許(10,492,542)を保有する。クレームに記載された数値範囲の「75~85%」は、明細書で記載された数値範囲「約75~125%」「約80~120%」「約85~115%」「約90~110%」と異なっており、しかも明細書には上限値(85%)が記載されていなかった。Philip Morrisは542特許のIPRを特許庁に申請し、クレーム記載の数値限定が明細書でサポートされていないとして、記載不備(特許法112条)による特許無効を主張した。又、4件の先行特許を引用して542特許のクレームが自明だとして無効を主張した。PTABは、Philip Morrisの主張に同意し、主要なクレームを無効と決定した。RAIはその決定を不服としてCAFCに控訴し、記載不備の認定と非自明性の欠如の決定には誤りがあると主張した。

CAFCは、「記載不備」についてのPTABの解釈が誤っていたとして事案を差戻し、その理由を次のように述べた。判例により、明細書の数値範囲がクレームの数値範囲と同一記載よりも狭い場合、明細書でサポートされているかどうかの判断は、単に記載された数値を比較するのではなく、明細書に記載された数値範囲がクレームに記載された範囲を実体的にカバーしているかどうかで判断しなければならない。本件の場合、「75%」「85%」という数字は明細書に開示されている、技術的な複雑性が低く予見可能性の高い分野であること、数値範囲を「75~85%」にすることで発明が変わるわけでない、といった点を考慮すると、クレームの記載と明細書の記載に矛盾はなく、クレームされた発明と明細書に記載された発明は別個との主張は成り立たない。

CAFCは、542特許の一部クレームを自明としたPTABの決定については、当業者であれば引用された先行特許を組み合わせることで発明を想起しうるとして支持した。

本件は、クレームの記載が狭いにも拘わらず、明細書に例示された数値範囲は広く、しかも複数例示されているため、「珍しい」事案であると判決文の中で書いている。CAFCも自明性による特許無効を認めており、実質的には特許権者が敗訴した事案である。