この事件のポイントは、クレームで使用されている文言が普通とは違った意味をもつ場合、明細書における文言の定義が重要であることを示した事件です。特に、“conventional”という文言は、その文言が明確に定義づけされていない限り、特許クレームでは使用すべきでないことが指摘されています。すなわち、出願時において公知でないものは、“conventional”なものとは言えず、技術的範囲から除外されてしまう危険性があるというところにあります。
クレームにおける「conventional(従来の)」の解釈について
2005年5月6日、CAFCは、被告であるSmart disk及びFuji Photo Film USAを支持した地方裁判所の略式判決を維持する見解を示した。
米国特許第5,224,216号(以下、216特許)は、周辺機器に接続可能かつ、フロッピーディスクドライブに挿入することによりコンピュータの入出力ポートを使用することなく周辺機器の使用を可能にするフロッピーディスク型カプラーに関する発明であった。
被告等はコンピュータに接続されるメモリ及びスマートカードリーダを生産しており、原告はそのリーダが216特許を侵害していると主張した。
216特許のクレームにおいて、周辺機器は「一般に、従来型の(conventional)コンピュータの入出力ポートに接続できる」、また「周辺機器の標準(standard)入出力ポートを介して従来のように(traditionally)接続できる」と説明されていた。
クレーム解釈において地方裁判所はKopykake Enters. Inc. 対 Licks Co.事件、264 F.3d 1377 (Fed. Cir. 2001)を挙げ、「従来型のコンピュータの入出力ポート」とは、216特許が出願された1988年に存在していた入出力ポートを意味すると判断した。
同様に「標準入出力ポート」も216特許の出願時に存在していたポートと解釈され、クレームを限定する要素となると解釈した。
メディアカードインタフェイス及びスマートカードインタフェイスは、どちらも1988年には存在していなかったため、地方裁判所は本件では文言上の侵害はないと判断し、被告に対して略式判決を認めた。
原告は、地方裁判所が「一般に(normally)」及び「従来のように(traditionally)」という文言が1988年に存在していた製品にのみ限定されると判断したことは誤りであると主張して控訴した。原告はさらに、地方裁判所は均等論により侵害を肯定すべきであったと主張した。
控訴審においてCAFCは地方裁判所の判決を維持し、文言が特異な意味をもち得るが、クレームにおいて「conventional」や「traditionally」といった文言が通常とは違った意味をもつのであれば、それは明細書や包袋への記録によって定義されていなければならないと判断した。そのような定義がない場合、それらの文言は出願時における通常の意味でしか解釈されないというわけである。
そのような文言解釈及び1988年時の技術から考慮すれば、侵害被疑品に使用されているメモリカード及びスマートカードは1988年に存在していた入出力ポートに直接接続できないため、非侵害という判断にCAFCも同意した。CAFCはまた、原告が地方裁判所において均等論の適用を主張していなかったことから、この主張を却下した。
本件は、クレームにおいて使用されている文言が通常とは違った意味をもつ場合の、それら文言の定義づけの重要性を示した点で重要である。特に「conventional」という文言は、その文言が明確に定義づけされていない限り特許クレームでは使用すべきでないことを示している。さらに本件は、特許出願時に存在している構造にクレーム範囲を限定する文言の使用に対する危険性を示している。