判決が確定するまでは、その事件はPTABがIPRで示す特許の有効性に関連する決定により影響を受ける可能性がある。この判決は、特許侵害訴訟の判決の確定とPTABの特許の無効の決定との関係について見解を示している。
PTABから IPRの決定が出るまでは特許の有効性は確定しないとの理由で、地裁の救済判決(損害賠償の裁定と実施料率の裁定)を取り消した事例。
Packet Intelligence LLC(以下、Packet)は、コンピュータ・ネットワークのパケット監視の方法に関する3件の特許(6,665,725、6,839,751&6,954,789)特許権者で、NetScout Systems, Inc.(以下、NetScout)を特許侵害でテキサス州東部地区地裁に提訴した。地裁は、(1) NetScoutの故意侵害、(2) 対象クレームの有効性、(3) 訴訟提起前の損害賠償として350万ドル、(4)訴訟提起後の損害賠償として225万ドル、(5) (故意侵害に対する)280万ドルの加重賠償、 (6) 将来分として1.55%のロイヤルティ率での支払い―を判決した。NetScoutはCAFCに控訴し、Packetのライセンシーがライセンス許諾製品に特許表示(marking)を適正に行わなかったので訴訟提起前の損害賠償は発生しないと主張した。CAFCは、NetScoutの主張を支持し、訴訟提起前の損害賠償についての判決を破棄した(Packet I事件)。
この事件の差戻審が地裁に係属中に、係争特許についての第三者Juniper Networks, Inc.およびPalo Alto Networks, Inc.によるIPRが終了し、PTABは自明を理由にして訴因となった全ての特許を無効にする決定を出した。Packetは、PTABの決定に対して、CAFCに控訴した。一方、PTABの決定を受けて、NetScoutは地裁に対して、Packetに対する侵害訴訟を棄却するか、Packetの控訴審が終結するまで裁判の停止を求めるモーションを申し立てた。Packetもこの申立てを支持した。しかし、地裁はそのモーションを受け容れず、訴訟前の賠償額を削除し、訴訟後の賠償額の全額を維持し、実施料率を1.55%から1.355%に引き下げる判決を下した。NetScoutはCAFCに控訴した(Packet II事件)。
NetScoutは、控訴審において、本訴訟で主張されているクレームが特許無効であるとのPTABの決定が支持された場合、訴訟の原因自体がなくなると主張した。一方、Packetは、特許侵害に対する未解決の金銭的損害賠償金を回収することができなくなると主張した。Packetは、Packet IにおけるCAFCの判断が最終的なものであり、その後にPTABによるIPRの無効の決定は影響しないと主張した。
CAFCは、Packetは特許の無効により訴因を失い、NetScoutとの争いは無意味になったと判断した。従って、地裁の判決を破棄し、本件を棄却するよう指示して地裁に差し戻した。その理由を、地裁の賠償額の変更、実施料率の変更をする修正判決は、未確定の段階であるから、その後の特許の有効性に関連する展開により影響を受ける可能性がある。CAFCは、先例(Fresenius II, 721 F.3d at 1341)により、Packet特許の侵害判決(Packet I事件)は確定しておらず、PTABのIPR決定に影響を受けると述べた。
未確定な判決は、その判決後に下されるIPRの決定により影響を受ける可能性がある。判決後に出されたIPRの特許無効の決定により、その判決が取り消された事例である。