米国では判例により特許のクレームが情報の内容を特定している場合、そのクレームは印刷物(printed matter)として発明性が否定される。本件では、クレーム中の暗号化通信とプログラムコードの文言が印刷物に該当するかどうかが争点となった。
クレーム中の暗号化通信やプログラムコードの文言を根拠に、「印刷物の法理」を適用したIPRの決定を取り消した事例。
OENGINE LLC(以下ONENGINE)は、携帯型データ処理装置に関する特許(8,539,047, 9,059,969 & 9,774,703)の特許権者である。
これらの特許は共通の親特許から分割したもので、明細書の記載のかなりの部分は共通である。Ingenico Inc.は、3件の特許それぞれに対し非自明を理由にIPRを申請した。PTABは全ての特許について、クレームの一部を無効と決定した。ONENGINEはCAFCに控訴し、PTABの決定に文言解釈上の誤りがあり、新規性の判断にも誤りがあると主張した。CAFCは、ONENGINEの控訴を退け、印刷物は特許にならないという原則(印刷物の原則)を適用した一部のクレームの無効判断は誤りであるとして、PTABの決定を破棄した。自明を理由としたクレームの無効判断についてはそれを支持した。CAFCは、印刷物の原則についての破棄理由を次のように説明した。
印刷物の原則は、クレームが機能的な役割を持つ場合には適用除外となる。PTABは、クレーム中の暗号通信(encrypted communications)、プログラムコード(program code)プロセスを記載しており、印刷物のようなコンテンツ(処方箋とか、取り扱い説明書)のみを記載するものはないため、印刷物の法理は適用されないと認定し、IPRの決定を取り消した。
印刷物が特許対象外である場合に発明性を否定する法理をこの種の発明への適用には無理がある。encrypted communications、program codeは通信内容のコンテンツではなく、通信の方法、通信技術に関わるためである。