CAFC判決

CAFC判決

Nulogy Corp. 対 Menasha Packaging Co., LLC, et al. 事件

7th Circuit, No. 22-1583 (August 7, 2023)

この判決で第7巡回区控訴裁判所は、契約において複数の被告のうちの一部のみとの関係で裁判地として別の裁判所が指定されている事例において、「フォーラム・ノン・コンビニエンスの原則」を考慮しつつ、一部の被告についてのみ訴訟を却下し、残りの被告について訴訟を維持すると判断した。

被告の一部のみについて契約で裁判地が指定されている場合の残りの被告に関する裁判地の適否について判断した事例

Nulogy Corporation(Nulogy)は、オンタリオ州トロントに本社を置く、カナダ有数の技術会社であり、サプライチェーン・マネジメント、倉庫管理、受託包装、受託製造・組立など、さまざまなビジネスのためのソフトウェア製品や貴重な機能を開発・サポートしている。Nulogyは、「Nulogy Solutions」を提供し、これには、迅速なサプライチェーン管理を提供するためのソフトウェアソリューションが含まれている。

Menasha Packaging Company, LLC(Menasha)は、Nulogyが所有するソフトウェア「Nulogy Solution」について使用許諾(ライセンス)を受けている。許諾ソフトの有効性を改善するため、Menashaは、DeloitteにMenashaのシステム運用と全体的なレビューを委託するとして、ライセンサであるNulogyにライセンス対象以外の専有情報についてのアクセス権の提供を求め、Nulogyはそれに応じた。原告は、被告のシカゴ事務所において、発表・会議を含め、多くの機密情報の開示を行った。

原告(Nulogy)は、Deloitteが、原告のソフトウェアをMenashaが代替するための新しいシステムを作成するために、企業秘密情報を使用したと主張する。

被告は、イリノイ州ロメオビル及びテキサス州ダラスに所在する施設にNulogyの企業秘密情報を不正に利用するソリューションのテスト版を設置した。

原告は2020年、カナダ連邦オンタリオ州地裁にMenashaとDeloitteを契約違反と企業秘密の不正流用で提訴した。

被告のDeloitteが裁判管轄を問題にしたため、原告はカナダでの訴訟の被告からDeloitteを除外し、企業秘密の不正流用についての主張を取り下げ、代わりにイリノイ州北部地区地裁に連邦法トレードシークレット保護法(18 U.S.C. 1836(b))と州法違反で提訴した。しかし、被告のMenashaに対する契約違反の訴訟はカナダの裁判所に依然として係属していたため、被告のMenashaはカナダの裁判所の方がより適切であるという理由で米国イリノイ州でのトレードシークレット保護法違反訴訟の棄却を求める動議を提出した。NulogyとMenashaとのライセンス契約には、オンタリオ州の実態法およびそれに適用されるカナダ連邦法に準拠し、両当事者は、カナダ・オンタリオ州トロントにおける本契約に関連して訴訟を提起し、かつ、カナダの裁判所が管轄権を有することを挙げた。一方、Nulogyは自発的にDeloitteをカナダの裁判からはずし、企業秘密の不正流用についての請求をはずし、カナダ裁判所でのMenashaに対する契約上の主張と、イリノイ州裁判所でのMenashaとDeloitteに対する企業秘密の主張の裁判を優先している。

地裁は、被告のMenashaに対するトレードシークレット保護法違反の訴えを棄却し、「フォーラム・ノン・コンビニエンスの原則」(forum non conveniens)により被告Deloitteを含む他の全ての被告に対する裁判を棄却した。事案は第7巡回区控訴裁に控訴された。第7控訴裁は、被告のMenashaに対する裁判の棄却については支持したが、被告のDeloitteに対する裁判の棄却については地裁判決を破棄した。Deloitteは契約の当事者ではないため、カナダを裁判地とする契約の規定はDeloitteに及ばないからである。

米国では契約書に規定された裁判地選択条項の解釈にあたり、「フォーラム・ノン・コンビニエンスの原則」が重視される(Atl. Marine Constr. Co. v. U.S. Dist. Ct. for the W. Dist. of Tex., (2013))。この原則は、原告による乱訴と裁判地漁り(フォーラム・ショッピング)を抑制するために確立した原則である。