最高裁がCAFCの不明瞭性の判断基準を否定し、新たな基準を示して不明瞭を理由に特許を無効とした判決,最高裁判所は特許発明の不明瞭性を判断するためのCAFCの基準を否定し、合理的な明確性をもって当業者に特許の技術的範囲を示さないクレームは不明瞭を理由に無効であると判決した。
最高裁がCAFCの不明瞭性の判断基準を否定し、新たな基準を示して不明瞭を理由に特許を無効とした判決
バイオシグ(Biosig Instruments, Inc.)は、グレゴリー・レクトマン博士(Dr. Gregory Lekhtman)が発明した心拍計に関する米国特許第5,337,753号(753特許)の特許権を、1994年に譲り受けた。心拍計は、各心拍に伴う電気信号を妨げるように働く骨格筋により生成される電気信号を検知可能である。この2種類の電気信号を区別できる点において、レクトマン博士の心拍計は、他の市販のものより正確であると言われている。
1990年代、バイオシグは753特許に関する設計をステアマスタ(Stairmaster Sports Medical Products, Inc.)に開示したと思われる。ステアマスタは、先にバイオシグからライセンスを取得せずに特許技術を含む製品を販売した。2004年に、バイオシグはステアマスタを買収し、ライセンス無しで特許の心拍計を含む製品の販売を続けたノーチラス(Nautilus Inc.)に対して提訴した。
ノーチラスは、753特許が先行文献に基づき無効であることを求め、米国特許商標庁(PTO)に753特許の再審査を請求した。その後、バイオシグは訴訟を任意に取り下げた。しかし、PTOは、この心拍計の特許に関し先行文献に対する特許性を認めたので、バイオシグは2011年に地方裁判所において特許権侵害訴訟を改めて提訴した。
地方裁判所は、クレーム解釈に関するヒアリングを行い、心拍計の「ライブ」電極と「共通」電極を、「互いに間隔をあけた関係で(spaced relationship with)設置する」クレーム要件に焦点を当てた。ノーチラスは、「間隔をあけた関係」という文言が法的要件を満たさないために不明瞭であることを理由に、略式判決を申し立てた。
地方裁判所はノーチラスの主張を支持し、「間隔をあけた関係」の文言は電極間の間隔が不明瞭なので、753特許を不明瞭を理由に無効とした。
控訴審において、CAFCは地裁判決を破棄し、事件を差し戻し、特許クレームに関して、「解釈が困難」またはクレームが「多義的で解釈不能」である場合にのみ不明瞭性を理由に無効になるという基準を挙げた。
CAFCの多数派は、その基準を適用すると、当業者であればクレームの機能的な要件に注目して、「間隔をあけた関係」をどう解釈するかを判断すると説明した。最高裁判所は、「間隔をあけた関係」という文言が明瞭性の要件を満たすか否かの点に関し、裁量上訴の申し立てを認め、CAFC判決を破棄して事件を差し戻した。
最高裁はまず、法律上必要とされる明瞭性の判断基準を明確にし、適切な基準として以下の点を挙げた。(1)当業者の観点から判断すること。(2)特許の明細書及び審査経過に鑑みて判断すること。(3)特許出願当時の当業者の視点から評価し、発明の技術的範囲について合理的な明確性があること。
CAFCのテストを否定して、最高裁は、明瞭性の基準は文言が持つ本来の意味と、開発意欲の確保とのバランスであると述べた。さらに、最高裁は、明瞭性の要件は、出願人が意図的にあいまいで漠然とした表現を特許クレームに挿入する危険性を防ぐことに留意した。
最高裁は、適切な基準で、「間隔をあけた関係」という文言が不明瞭であるかどうかの判断をするために事件をCAFCに差し戻した。
ノーチラス事件は、新しい「合理的な明確性」の基準は、法律上の明瞭性の要件を満たすためには、より具体性が求められるため重要である。最高裁は、CAFCの「多義的で解釈不能」という基準が法律規定の文言に適合しないと判断した。新基準を採用することによって、CAFCは、明瞭性の要件は、どのような発明主題が開示対象であるかを公衆に知らせるために存在する要件であることを確認した。
Key Point?最高裁判所は特許発明の不明瞭性を判断するためのCAFCの基準を否定し、合理的な明確性をもって当業者に特許の技術的範囲を示さないクレームは不明瞭を理由に無効であると判決した。