本件でも公然使用による不特許事由が争点となりました。本件においてCAFCは、公然使用のうち「公然」の部分ではなく「使用」の部分に焦点を当てました。特許出願日より1年を超える前に発明に係る製品が使用されたとしても、その使用が「通常のビジネスの流れ」に沿った使用でなければ、すなわち、その製品が意図する用途で使用されたのでなければ、「使用」には当たらないことが確認された事件です。
出願前に実施された行為が不特許事由である公然使用から除外される実験的な使用であることを立証するには事実の証明が特に重要である
モーションレス(Motionless)事件において、CAFCは、地方裁判所による非侵害の略式判決を支持したが、公然使用に基づく特許無効の判決を破棄した。後者の争点の審理において、地方裁判所の判決において「公然の」部分に焦点を当てたのとは対照的に、CAFCの分析は、公然使用における「使用」の部分に焦点を当てたのである。
Thomas Gambaro(以下、ギャンバロ)はエルゴノミック・キーボード技術を発明した個人発明家で、彼はさらにCherry Model 5という彼のキーボード技術の原型モデルを開発した。
Cherry Model 5はビジネスパートナー、潜在的顧客、及び2名の友人を含む多くの人々に紹介された。彼は後にキーボード技術に関する2つの特許権を取得し、それらをMotionless Keyboard Company(以下、モーションレス)に譲渡した。、モーションレスはMicrosoft, Nokia Inc.およびSaitek Industries Ltd.に対し侵害訴訟を提起した。略式判決において地方裁判所は、争点の中でも特に公然使用を理由に2つの特許は登録が無効であると認定した。
CAFCは地方裁判所が認めた無効理由について説明した。基準日以前に、、ギャンバロはCherry Model 5 を(1)その発明に対する秘匿義務を負う彼のビジネスパートナー、および、(2)潜在的顧客に紹介した。(2)の潜在的顧客がサインした機密保持契約は、商業目的の契約であるから公然使用を除外するものではなかった。(Motionless, 2007 WL 1531401, *6)
ハネウエル事件において述べられた公然使用の基準に加え、CAFCは、Pfaff 事件におけるポリシーの考察(525 U.S. at 64)についても述べ、公然使用による不特許事由は「発明者に現在の知識を公然使用から除外させることに躊躇したこと」が原因であると述べた。(Motionless, 2007 WL 1531401, *5)CAFCの分析は明らかにPfaff 事件におけるポリシーの考察によってもたらされたものであった。
ひとつを除く他の全ての開示物において、Cherry Model 5 はコンピュータもしくは他の装置に接続していなかった。(Motionless, 2007 WL 1531401, *6)したがって、「接続されていない開示物の中で、ギャンバロは新しいキーボードデザインの外観を示していただけで、指の動きをキーの作動に変えるCherry Model 5 の機能を開示していなかった」(同判決)
Cherry Model 5 がコンピュータに接続されていた唯一の開示物では、ギャンバロが彼の友人とタイピングテストを行っていた。タイピングテストは発明の「通常のビジネスの流れ」に無いものであることから、CAFCは、Cherry Model 5 がその製品が意図する用途では使用されていなかったと認定した。(同判決)
従って、CAFCは、機密保持契約およびギャンバロの限定的な開示は公然使用による不特許事由を満たさない、と述べて、地方裁判所の判決を破棄した。
ハネウエル事件と同様、モーションレス事件は、公然使用による不特許事由の要件は極めて事実に基づいており、本件の特許権者は特許無効の申立に対し勝訴したが、特許権者は一般的に、特許出願日以前に使用したことで、特許付与後に無効が申立られる可能性があることに注意すべきであることを再度示したといえる。