この事件では、特許出願の事実上の譲渡人が、その譲渡に関わる特許の有効性を争うことに対して譲渡人禁反言が成立するかどうかが争われ、クレームが拡張されたことを理由に譲渡人禁反言を否定した。
特許出願の事実上の譲渡人に、譲渡後に成立した特許の有効性を争うことを認めた判決
Csaba Truckai氏(以下「Truckai氏」)は、異常子宮出血(AUB)の治療機器を開発し、この機器に関する特許出願(以下「親出願」)を行った。特許出願はNovacept, Inc.(以下「Novacept」)に譲渡され、特許(以下「親特許」)は許可され、食品医薬品局(FDA)から治療機器の販売承認も下りた。親特許は、アプリケータ・ヘッドが「透湿性(moisture permeable)」である旨の限定を含んでいた。
その後、Novaceptは親特許を含む特許ポートフォリオを他社に売却した。親特許は、更なる売却により、最終的にHologic, Inc.(以下「Hologic」)の手に渡った。2008年、Truckai氏は新会社Minerva Surgical, Inc.(以下「Minerva」)を設立し、そこで新しいAUB治療機器の開発を始めた。新しく開発した治療機器に特許が認められ、FDAから同機器の販売承認も下りた。
2013年、Hologicは、継続出願を行い、その出願は特許(以下「継続特許」)された。継続特許は、アプリケータ・ヘッドが「透湿性」である旨の限定が除かれたクレームを含んでいた。Hologicは、この継続特許に基づいて、Minervaを特許侵害で訴えた。
Minervaは、Hologicの継続特許においてクレームされたアプリケータ・ヘッド(「透湿性」の限定を伴わない)が、アプリケータ・ヘッドが「透湿性」であるとする明細書の記載と整合しないので、継続特許は無効であると抗弁した。それに対抗して、Hologicは、「アサイナー・エストッペル」(以下、「譲渡人禁反言」)を主張し、親特許の譲渡人であるTruckai氏の分身に相当するMenervaは継続特許の有効性を争うことができないと主張した。地裁はHologicが主張した譲渡人禁反言を認め、CAFCも譲渡人禁反言に関する地裁の判断を支持した。これに対し、Minervaは連邦最高裁に上告した。
最高裁は、譲渡人禁反言の適用には制限があり、仮にMinervaが主張するように継続特許のクレームの権利範囲が親出願の譲渡時におけるクレームよりも広くなっているであれば、譲渡人禁反言は適用されず、Minervaは継続特許の有効性を争うことができると判示した。そして、CAFCは譲渡人禁反言が適用されるか否かのボーダーラインを認識しておらず、継続特許のクレームの権利範囲が広くなっているから譲渡人禁反言が適用されないというMinervaの主張を審理していなかったので、この点について更に審理させるために事件をCAFCに差し戻した。