これらの事件では、訴訟開始前に文書破棄・保存ポリシーを承認することの潜在的な危険性が明らかになりました。訴訟が差し迫る前に文書を破棄しても証拠隠滅を問われることがあるので注意が必要です。
マイクロン対ランバス(Micron Tech., Inc. 対 Rambus, Inc.)事件(以下、マイクロン事件)で、CAFCは Rambus, Inc.(以下、ラムバス)が証拠隠滅(すなわち、不適切な訴訟前文書破棄)に関与したという地方裁判所の判断を支持したが、訴訟を却下した裁判所の決定を破棄して、不誠実および不利益に関するより詳細な認定のために差し戻した。
マイクロン事件に付随する事件であるハイニックス・コンデンサー対ラムバス(Hynix Semiconductor, Inc. 対 Rambus, Inc.)事件(以下、ハイニックス事件)の関連部分で、CAFCはラムバスが証拠隠滅に関与しなかったという地方裁判所の判断を破棄し、マイクロン事件で展開されたフレームワークの下での分析のためにこの争点を差し戻した。
これらの2つの事件は同じ議論から発生した。文書保存・破棄ポリシーを実施して、ラムバスはさまざまな「シュレッダーの日」に自身の特許に関する何千もの文書を破棄した。破棄は約1年間にわたって行われ、この間にラムバスは成長し続け、自身の特許権を行使するための戦略を実施し始めた。
2000年8月に、侵害訴訟の潜在的な対象であるマイクロンとハイニックスはそれぞれ、デラウェア州地区地方裁判所とカリフォルニア州北部地区地方裁判所にラムバスに対する別々の確認判決訴訟を提出した。両訴訟手続きにおいて「証拠隠滅」の争点が提起され、共通の事実的根拠にかかわらず、両裁判所は正反対の結論に達した。
マイクロン事件で、CAFCは、企業が通常の環境の下では文書保存ポリシーを実施してもよいとの認識の下、分析を開始した。しかしながら、実際は訴訟が係属するか、訴訟の発生が合理的に予測可能になった時点で証拠保全義務が発生する(注1)。
「証拠隠滅」という文言はこの義務に違反する証拠の破棄または改変をいう。証拠隠滅が行われたかどうかを判定するために、裁判所は合理的な当事者が同一の事実環境において合理的に訴訟を予測したかどうかを分析しなければならない。
マイクロン事件における地方裁判所の判決に控訴して、ラムバスは、訴訟が「差し迫った」時点で証拠保全義務が始まると主張した(注2)。CAFCはこの主張を却下し、訴訟が差し迫っていれば証拠隠滅を確立できることを示したものの、証拠隠滅を確立するためには訴訟が差し迫っていなければならないことを示したわけではない先の事件の文言をラムバスが広く解釈し過ぎていると判断した。そうではなく、CAFCは、個別の事件の事実を検討するために地方裁判所に広い裁量を付与する柔軟なアプローチを採用した。
「起こり得る主張の単なる存在または訴訟のわずかな可能性」によりこの義務が引き起こされないものの(注3)、差し迫っている必要はない。
マイクロン事件で、CAFCは、地方裁判所が決定した訴訟が合理的に予測可能であった時期が、明確な誤りに基づいて再審理可能な事実認定であるとみなした。
そして、CAFCは地方裁判所が明確には誤っていないと判断し、1999年8月のラムバスによる2回目の主なシュレッダー日の時点で訴訟が合理的に予想可能であったという判断について十分な支持があることを認めた。
しかしながら、CAFCは適切な制裁を選択する際に地方裁判所により享受される広い裁量を考慮しつつ、不誠実および不利益の判定が典型的に証拠隠滅に起因する却下のための必須要件であることを示した。CAFCは、地方裁判所が不誠実および不利益の判定について十分な事実説明を行わなかったことを認定して、さらなる分析のために事件を差し戻した。
ハイニックス事件で、CAFCは訴訟が差し迫ったことを必要として、地方裁判所が不適切に狭い基準を証拠隠滅に適用し、法的な誤りを犯したと判断した。従って、CAFCはマイクロン事件におけるルールに従う分析のためにこの争点を差し戻した。
マイクロン事件およびハイニックス事件の決定は、訴訟開始前に文書破棄・保存ポリシーを承認することの潜在的な危険性を明らかにした。
証拠隠滅および却下の制裁の潜在性の認定において地方裁判所に与えられた広い裁量の観点から、訴訟が検討されている際に文書破棄ポリシーを実施する場合に企業は用心することが賢明であるかもしれない。
Key Point?これらの事件では、訴訟開始前に文書破棄・保存ポリシーを承認することの潜在的な危険性が明らかになった。訴訟が差し迫る前に文書を破棄しても証拠隠滅を問われることがある。