この事件において最高裁は、争点のクレームはチオプリン薬による治療効果を最適化する方法をクレームしており、そのプロセスは自然法則を利用した「よく知られた、慣例的な従来からある行為」をクレームしているので、特許適格性が無いと判断しました。この判決において最高裁は、machine-or-transformationテストは、特許性の判断をする上での手掛かりとはなるが、自然法則を排除する上での切り札とはならないことを示しました。
この最高裁判決は米国特許法第101条の発明の主題に関し、特許のプロセスが自然法則に係り、特許適格性の問題を取り扱った事件である。
プロメテウス(Prometheus Laboratories, Inc.)は、クローン病や潰瘍性大腸炎等の自己免疫疾患の治療に用いるチオプリン薬の使用に関する複数の特許を所有する。争点のクレームは、医師がチオプリン薬の使用に際し、投薬量が少なすぎるまたは多すぎるかどうかを判断するのに役立つプロセスに関連していた。
米国特許第6,355,623号(623特許)のクレーム1は、免疫介在性消化器疾患の治療効果を最適化する方法に関するものだった。その方法は、6-チオグアニン(6-TG)を含む薬剤を投与するステップ、患者の6-TGのレベルを判断するステップ、及び患者の血中6-TG濃度に関連する治療情報を記した2つのwherein節を含んでいた。
最初のwherein節は、もし6-TG濃度が特定レベルよりも低かった場合は、薬剤の量を増やして患者に投与すると効果的であると記載していた。反対に第2のwherein節は、6-TG濃度が特定レベルよりも高かった場合に、薬剤量を減らして患者に投与すると効果的であると記していた。
特許適格性を検討する上で、最高裁はまず、チオプリン薬剤の投与の効果の有無、更に有害である可能性と血中6-TG濃度との関係は自然法則であると述べた。米国特許法の下では、自然法則は特許を受けることができないので、最高裁は、自然法則を応用した特許適格性を満たすに十分な相互関係が特許クレームに追加されているか否かを審理した。
その答えを出すために、最高裁は、クレームされたプロセスの個々のステップを個別に分析した。特に、クレームされた夫々のプロセスの新規性の有無とそのステップがむしろ「自然法則自体を独占するように記載されたかどうかに焦点を合わせて分析した。
まず最高裁は、「投与」ステップは、患者を治療するためにチオプリン薬を使用する者、つまり、医師について述べているにすぎず、その使用者は従前から存在していたと認定した。最高裁は、「投与」ステップに特許性を認めることは、特定の技術に使用を限定することで抽象的概念への特許付与の禁止は免れないと警告した判例に違反する、と判示した。
続いてwherein節に関して最高裁は、これらの節は、関係する自然法則を医師に伝えているか、せいぜい、医師が患者の治療においてこれらの自然法則に配慮すべきであることの示唆を加えただけである、と述べた。
最高裁はこのステップを、どれだけ多くのエネルギーから質量が作られるか(またはその逆)を判断するE=mc2の法則を直線加速器のオペレーターに伝えているにすぎない方法クレームと比較した。
最後に最高裁は「判断」ステップを審理し、このステップは、医師または研究室が選択したプロセスを介して、血液中の関連する代謝物のレベルを判断するために医師に通知するものであると認定した。
代謝レベルを判断する方法は発明時点で周知であったことから、最高裁は、このステップは「よく知られた、慣用的な従来からの技術」であると説明し、そのような「従来型の自明な」行為は、通常、特許対象ではない自然法則を、特許可能な程度まで変換していないと判断した。
クレームされたステップの組み合わせ順序がプロセスの特許性に影響を与えるか否かを審理して、最高裁は、ステップの組み合わせは、ステップを個別に考慮したときに存在しなかったようなことは何も自然法則に対してしていない、と判断した。
最高裁はさらに、クレームによって具現化される自然法則を利用したいと思う者は誰でも、クレームされたプロセスのステップを実行するであろう、と意見を述べた。
最高裁はさらに、プロメテウスの特許は machine-or-transformation テストを満たしていないと判示した。このテストに基づくと、クレームされたプロセスは、(1)特定の機械または装置に関連するか、(2)特定のものを異なる状態か物質に変換する場合には特許適格性がある。このテストをプロメテウスの特許に適用し、最高裁は、「投与」ステップは自然法則を適用することに関心のある個体群を抽出するのに役立つだけで関係がないと判示した。
「判断」ステップについては、もし、全く異なるシステムで血液中の代謝レベルを決定することができるようになれば、このステップはそのような変換をすることなく完了するので、machine-or-transformation テストを満たしていないと判断した。
最高裁は、machine-or-transformation テストは特許性の手掛かりとなる重要で役に立つものであるが、「自然法則」を排除する切り札ではない、と述べた。
メイヨ事件の最高裁判決は、クレームされたプロセスが自然法則をクレームしていることを理由に特許適格性が無いかどうかを判断するための新しい分析方法を示している点で重要である。
メイヨ事件における問題点は、クレームが著しく自然法則を超える記述をしているか否かである。その答えとして、最高裁は、プロセスのステップが「よく知られた、慣例的な従来からある行為」であるか否かというような、新規性または自明性の判断により典型的に関連する問題を考慮することが適切であることを示した。
最後に、この判決により、自然法則の除外の判断において、machine-or-transformation テストの重要性は低くなった。
Key Point?この事件において最高裁は、争点のクレームはチオプリン薬による治療効果を最適化する方法をクレームしており、そのプロセスは自然法則を利用した「よく知られた、慣例的な従来からある行為」をクレームしているので、特許適格性が無いと判断した。この判決において最高裁は、machine-or-transformation テストは、特許性の判断をする上での手掛かりとはなるが、自然法則を排除する上での切り札とはならないことを示した。