この事件は、米国特許法には特許侵害に対して日本のような過失の推定規定がなく、特許表示(マーキング)がない場合は,適切な警告を侵害者におこなったことを証明した場合に限り,その後の侵害行為に損害賠償請求が可能となる法体系であることが出発点である。そこで、この事件ではマーキングが無かったので侵害訴訟の提起日を特許表示の開始日と認定した。
地裁が認定した損害賠償の起算日に誤りがあるとして事案が差し戻された事例
Lubby Holdingsは、薬液やワックスなどを噴霧する携帯型パーソナル・ベイポライザーに関する特許(9,750,284)の権利者で、Vaporous Technologiesに同特許の非独占ライセンスを許諾していた。2018年1月26日、LubbyとVaporous(原告)は、Henry Chung(被告)をカリフォルニア州中部地区地裁に特許侵害で提訴した。陪審裁判の途中、被告は、原告が米国特許法287条が求めるマーキングの要件を順守していないため、損害賠償の問題について判事による法律問題としての審理(Judgment as a Matter Of Law)を求めるモーションを提出した。地裁がこのモーションについて判決を下さなかったため、陪審は被告による直接侵害を認定し、合理的実施料として約864,000ドルの損害賠償額を評決した。被告は、トライアル終了後のモーションを提出し、判事による法律問題としての審理を改めて求めた。しかし、陪審の判断は十分な証拠で裏付けられているとして、地裁は被告のモーションを退けた。被告はさらに、評決に見合う証拠はないと主張して新しいトライアルを求めるモーションを提出したが、地裁はそれも、詳しい理由を述べずに退けた。被告は、CAFCに控訴した。
CAFCは、陪審評決に際しての証拠は十分であったと認め、実質的に地裁の判決を支持した。ただし、侵害警告の前に販売された侵害品に対しても損害賠償を算定したのは地裁の誤りであるとして、訴訟提起日(2018年1月26日)以降の侵害品の販売数量を確定するためのトライアルを新たに開くよう、地裁に事案を差し戻した。