この事件でCAFCは、IPRの対象となっていないクレームに基づく再訴を棄却した地裁の判断を、IPRで採用する証拠基準と地裁で採用する証拠基準は異なるという理由から破棄・差戻した。
Kroy IP Holdingsはコンピュータ・ネットワークのインセンティブ・プログラムを提供する方法に関する特許(6,061,660)の特許権者である。Kroy は2017年10月にGroupon, Inc.を同特許が侵害されたとしてデラウエア地裁に訴えた。裁判が係属中の2018年10月、Grouponは660特許の21のクレームに対して2件のIPRを申請した。Kroyは、IPRの対象となっていないクレームを追加して訴状の内容を修正した。PTABは、IPRの対象である21のクレームを全て無効と決定した。この決定を不服としてKroyは控訴したが、CAFCは2021年6月、IPRの決定を支持した(第1訴訟)。
Kroyは2022年3月、IPRの対象となっていない、この特許の14のクレームが侵害されたとしてGrouponを訴えた(第2訴訟)。Grouponは、2件のIPRの無効決定により第2訴訟に訴訟理由がなないとして訴訟の却下を求めるモーションを提出した。地裁は、IPRで無効とされたクレームと第2訴訟の対象となったクレームの差異が無効の決定を覆すほど大きなものでない限り、Kroyは争点効(collateral estoppel)の法理により第2訴訟を提起することはできないと判決した。KroyはCAFCに控訴した。
CAFCは、地裁の第2訴訟を棄却した判決を破棄・差し戻し、その理由を次のように説明した。争点効は、第2訴訟が異なる立証義務などの法律基準を含む場合には適用されない。IPRでの立証義務は「証拠の優越(preponderance of the evidence)」基準であるのに対し、裁判所での立証義務は特許に有効性の推定が働くため(米国特許法282条)、無効にするためには「明白かつ説得力ある証拠」(clear and convincing evidence)が求められる。
従って、比較劣位の証拠基準(証拠の優越)がこの件に働き、新しく主張されたクレームに基づく訴えを地裁が排除できないことをCAFCは判示した。
(コメント:本件の棄却理由は証拠基準の適用が誤りなので、被告は、第2訴訟で侵害とされたクレームに対して改めてIPRを申請することになろう。)