刊行物の開示の条件,この事件では、特許の有効性を争う上で、雑誌上の広告が米国特許法第102条(b)上の刊行物の要件を備えているかどうかが争点となりました。この判決において、CAFCは、米国特許法第102条(b)の刊行物に該当するためには、刊行物は基準日以前に発行され、頒布されており、クレームの個々の限定を開示し、当業者が過度な実験をすることなくクレームされた発明の実施が可能でなければならないことを明らかにしました。
102条(b)の刊行物の要件
アイオベイト(Iovate Health Sciences, Inc.)とフロリダ大学研究財団(University of Florida Research Foundation, Inc.以下、財団)は、米国特許第6,100,287号(287特許)を米国特許法第102条(b)に基づく新規性欠如を理由に無効としたテキサス州東地区地方裁判所の略式判決に対し控訴した。
287特許は、筋力増強あるいは筋肉疲労回復のための、陽イオンまたは二塩基のアミノ酸及びケト酸を含む栄養補助食品の用途をクレームしている。287特許は、1997年11月13日提出の仮出願を優先権主張して、1998年11月13日に出願された。
2007年3月、アイオベイトは、バイオエンジニアード・サプリメンツ&ニュートリション(Bio-Engineered Supplements & Nutrition, Inc.以下、BSN)の栄養補助食品が287特許を侵害していると主張して、テキサス州東地区地方裁判所に提訴した。
侵害被疑品は、アルギニンαケトグルタン酸を含んでおり、筋力を増強し筋肉疲労を防ぐと広告されていた。BSNは、287特許はフィットネス雑誌に掲載されている数多くのアミノ酸・ケト酸栄養補助食品により新規性・進歩性がないと主張し、特許無効の略式判決の申立をした。
地方裁判所は、287特許のクレームは、1996年11月13日の基準日、すなわち、有効出願日の1年前より以前に、Flexという雑誌に掲載されたWeiderのVICTORYTM Professional Proteinの広告により、第102条(b)に基づき新規性がないと判示し、特許無効の略式判決を下した。
個々の広告には、成分表、ヒトに経口投与する場合の使用説明、およびボディービルダーの推薦文が含まれていた。広告は1996年6月号のFlexに登場し、アルギニンアスピレート、オルニチンαケトグルタミン酸、αケトイソカプロン酸、及びグルタミンを含むサプリメントが記載されていた。広告のサプリメントは、トレーニング前後に、筋力、筋肉のサイズ、及び筋肉量の増強のために、また、エクササイズ後に、より早く筋肉疲労を回復するために、水で服用すると注記されていた。
地方裁判所は、広告が第102条(b)に基づく公用並びに販売申込を構成すると判決した。アイオベイトは控訴した。
第102条(b)は、「発明が合衆国における特許出願日より1年以上前に、(中略)合衆国ないし外国において、(中略)刊行物に記載されている場合を除いて、何人も特許を受ける権利を与えられる」と規定している。
CAFCの合議体は、第102条(b)の刊行物を構成するためには、Professional Proteinの広告が、その広告に関連する主題に関心のある人、もしくはその当業者に対して、基準日前に頒布されていたかまたは他の方法でアクセス可能であったことが要件となる、と説明した。
更に、広告は、個々のクレームが含む限定を明示的または暗示的に記述しており、当業者が過度の実験をすることなく、クレームされた発明を実施可能であることが要件であるとした。
CAFCは、広告には、陽イオン及び二塩基の酸及びケト酸から構成されること、また、筋力増強あるいは筋肉疲労回復目的の組成物の投与が開示されていたことから、広告はクレームの個々の限定を記載していたと判示した。
CAFCは、クレーム1の前文(「筋力を増強もしくは筋肉の疲労を回復する方法」)は、組成物の「有効量」の投与を要件としているとした控訴人の主張を拒絶し、更に、クレームは、クレームされた組成物の投与によって達成される結果の更なる測定や判断を要件としていないと述べた。
従って、ある目的の、ある組成物を広告が開示したことは、クレームの新規性を失わせることに十分であると述べた。
CAFCはまた、広告により当業者はクレームが実施可能であると判示した。CAFCは、当業者が発明を実施するために必要なことは、広告に掲示された既知の成分と、広告によって教示された組成物の投与を組み合わせることだけであると述べた。更に、クレームは有効量を要件としていないが、もし要件としていたとしても、広告はアスリートに必要な体重1kg当たりに必要なプロテイン量を教示していた、と再度述べた。
アイオベイトのCAFC判決は、米国特許法第102条(b)に基づく特許無効申し立てに関連する判決である。この事件は、クレームが刊行物によって新規性が無いとされるための事実の認定を立証(あるいは反証)する証拠や論拠を浮き彫りにした。
特に、刊行物は、基準日以前に発行され、当業者に頒布されており、クレームの個々の限定を教示し、当業者が過度な実験をすることなくクレームされた発明の実施が可能でなければならない。特に、アイオベイト事件の判決は、これら全ての要件が広告によって満たされていると判示している。