この事件において、CAFCは、複雑な特許権訴訟事件で地方裁判所が特許権者に対し主張するクレームの数を限定するよう命じた場合に、それが適正手続の権利を侵害するか否かについて取り扱いました。CAFCは、特許権者に選択されなかったクレームに基づいて法的責任もしくは損害に関する独自の問題を提起する権利が害されていないことを認めました。そして、特許権者に対して、主張するクレームの数を限定するよう命じることは地方裁判所の裁量権に含まれるとした。
キャッツ(Katz)事件は、広域係属訴訟(以下、MDL)での特許権侵害訴訟からの上訴であり、訴訟を取り扱う地方裁判所(以下、MDL裁判所)はキャッツに対し、様々な被告のグループに対して主張するクレームを選択するように命じた。CAFCは、MDL裁判所はキャッツの適正手続の権利を濫用していないと認定し、上訴を棄却した。
MDLは、複数の米国地方裁判所において係属している関連する民事訴訟のグループの処理を効率化することを目的とした米国連邦裁判所の特別な訴訟手続である。そのような関連する事件は、もし事実問題を共有していれば、単独のMDL裁判所に移管されうる。
それらの事件では、全ての公判前手続及びディスカバリーがMDL裁判所によって扱われる。それらの事件が、ディスカバリーが終わるまでにMDL裁判所において結審されない、もしくは却下された場合には、裁判のために元の裁判所に差し戻される。
キャッツ事件の上訴審は、キャッツが31件の特許権から主張した1975個のクレームに対して、50の関連企業体のグループにおける165名の被告に対する25件の別々の訴訟を含む。これらの事件は、テキサス州東部及びデラウェア州で申し立てられたが、MDL手続のためにカリフォルニア州中部に移管された。
膨大な数のクレームと特許権侵害の申立を処理するために、MDL裁判所はキャッツに対し、まずそれぞれの被告グループごとに40個以下のクレームを選択し、開示手続の後でそれぞれの被告グループごとに選択したクレームの数を16個まで絞るよう命じた。
キャッツは、全ての被告に対して主張するクレームを合計64個まで限定した。しかしながら、MDL裁判所はまた、以前に選択されたクレームと重複しない特許権侵害もしくは特許有効性の問題を提起する場合には、キャッツが新しいクレームを追加することを許可した。
代わりに、キャッツはMDL裁判所が命じた限定は、キャッツの適正手続の権利を侵害したと主張して、全ての主張されていないクレームの処理を分離し、停止させようとした。
MDL裁判所はキャッツの申立を棄却し、MDL裁判所が選択されたクレームに対する被告側に有利な略式判決を認めた後、キャッツは控訴した。
控訴審においてキャッツは、MDL裁判所が、選択されていないクレームが選択されたクレームによって提起された問題と重複しない特許権侵害もしくは特許有効性の問題を提起した、との立証を行う責任をキャッツに負わせたことは不適当であったと主張した。
キャッツによると、MDL裁判所は問題が重複すると示す責任を訴えられた侵害者に求めるべきであったし、そのような立証がないかぎり、主張されなかったクレームはこの事件の判断から明らかに排除されるべきであったとキャッツは主張した。
しかし、CAFCはこれに同意しなかった。CAFCはこの事件の状況において、MDL裁判所は、被告に対して選択されなかったクレームの全てが重複することの証明を求めるよりむしろ、キャッツに対して別々の特許権侵害と特許有効性の問題を提起する選択されていないクレームを指摘するよう求めたことはより効率的であったと結論し、合理的に役割を果たしたと認定した。
CAFCは、原告が議論を狭めるのに最適な立場にいる場合は、原告に証拠提出責任を割り当てるのが意思決定の過程に有益であり、ゆえに負担の分配が、原告がクレームを提出する機会を不公平に侵害しないかぎり、適正手続は侵されないと理由づけた。
更にCAFCは、MDL裁判所が、もしキャッツが追加のクレームが固有の問題を提起することを示すことができれば、より多くのクレームが追加されうることを条件としたことに言及した。
よってCAFCは、MDLにより採用されたクレーム選択手続における負担の配分により、未選択のクレームに関する権利が間違ってキャッツから奪われてしまうような不公平な損害がもたらされることを、キャッツが実証することに失敗したと認定した。
しかしながら、CAFCはまた、特許権者が主張できるクレームを限定する判断は、審理に及ばないと述べた。キャッツは、選択されなかったいくつかのクレームが、法的責任もしくは損害に関して独自の問題を提起することを証明しようとしたかもしれない。しかしそのようにしなかったので、キャッツは上訴審において救済される資格を持たない、と考えたからである。
キャッツ事件は、複雑な複数の特許権、複数の被告に関わる事件を統轄する裁判所にとって、訴訟で議論される問題の数を限定することの必要性を明らかにした。CAFCの判決はMDL裁判所がその権限を有することを認めた。しかしながら、CAFCは、原告が全てのクレームに基づいて法的責任もしくは損害に関して独自の問題を提起する権利を保持していることに注意深く言及した。
Key Point?この事件において、CAFCは、複雑な特許権訴訟事件で地方裁判所が特許権者に対し主張するクレームの数を限定するよう命じた場合に、それが適正手続の権利を侵害するか否かについて取り扱った。CAFCは、特許権者に選択されなかったクレームに基づき法的責任もしくは損害に関する独自の問題を提起する権利が害されていないことを認めた。そして、特許権者に対して、主張するクレームの数を限定するよう命じることは地方裁判所の裁量権に含まれるとした。