CAFC判決

CAFC判決

Icon Health and Fitness, Inc.事件

2006-1573,2007,11,1-Aug-07

Icon事件において、CAFCは、KSR事件の最高裁判決に基づき、自明性の判断における類似技術には異なる分野の発明も含まれることを判示しました。このため、出願人及び特許権者はこの点に留意する必要があります。例えば、異なる分野の発明が類似技術として特許を無効化する引例となる場合があるからです。

KSR事件の最高裁判所判決の観点から異なる分野の発明が自明性判断における類似技術になり得るかを判断した事件

アイコン(Icon)事件では、特許審判・抵触審査部(Board of Patent Appeals and Interference以下、Board)が、折り畳み基部を有し、当該基部が直立位置まで旋回可能なトレッドミルをクレームする米国特許第5,676,624号(以下、624特許)は自明であるという、再審査での審査官の査定を維持した。

アイコンは、キャビネットや収納部の中に折り畳み可能なベッドが類似技術であるということに審査官とBoardが依拠していることに異議を唱えて控訴した。CAFCは、折り畳み式ベッドは類似技術であると判示し、624特許は従来技術から見て自明であり、特許性がないというBoardの審決を維持した。

624特許のクレーム1は、トレッドミルのトレッド(踏み面)基部を直立方向に「安定して保持するのを補助するための」ガススプリングを要件としている。

再審査において、審査官は、Damark International, Inc.の広告(以下、ダマーク広告)とTeague, Jr.に付与された米国特許第4,370,766号(以下、766特許)との組合せに基づき米国特許法第103条の下で自明であるとして、624特許のクレームを拒絶した。

ダマークは折り畳み式トレッドミルの広告であり、アイコンは、ガススプリングを除く全てのクレーム要素をダマーク広告は示しているというBoardの認定に対して異議を唱えなかった。このため、争点となったのは、766特許によるガススプリングの開示と、アイコンの発明への適用可能性であった。

766特許には折り畳み式ベッドの機構が記載されており、当該機構は、従来技術で使用されていた単動式スプリングではなく、複動式スプリングを使用している。766特許の機構は閉位置と開位置の両方でベッドの重量を支えており、これによって、閉位置からベッドを開くのに必要な力が軽減されるとともに、開位置からベッドを持ち上げるのに必要な力も軽減される。

アイコンは、766特許は「トレッドミルの技術分野」には含まれず、624特許が解決しようとする課題とは異なる課題を解決しようとしているため、766特許は関連する従来技術ではないと主張した。この主張を斥ける上で、CAFCは、最高裁判所において「ありふれたもの(familiar item)は、自明な使用であれば、その主たる目的を超えた使用がなされてもよい」と判示された、KSR Int’l Co. 対 Teleflex, Inc.事件の最近の判決(127 S. Ct. 1727, 1742(2007) )に従っている。CAFCは、本事件では、624特許の折り畳み機構に関して、トレッドミルのために特に焦点を合わせる必要は全くなかったと認定した。アイコンの発明はトレッドミルの重量を支え、安定した休止位置を提供するという課題を解決しようとしているが、それに類似する技術は、766特許の折り畳み式ベッドを含む、ヒンジ、スプリング、ラッチ、釣り合いおもり、その他同様の機構を用いるあらゆる分野から導き得たと、CAFCは判示した。このため、CAFCは、766特許の折り畳み式ベッドはアイコンの発明の類似技術であるというBoardの認定は、証拠によって支持されていると判示した。

766特許とダマーク広告の組合せの観点から624特許を検討して、CAFCは自明性に関するBoardの審決を維持した。CAFCは、624特許に開示された課題と同種の課題を解決する機構の一種を766特許が開示していると認定した。両者の相違点は、624特許にはトレッドミルが記載されているのに対し、766特許には折り畳み式ベッドが記載されているということだけであった。

折り畳み式トレッドミルの改良を望む当業者は、766特許に注目し、766特許の教示内容とダマーク広告とを組合せるであろうから、624特許は自明であったとCAFCは判示した。

CAFCは、766特許は当業者に単動式スプリングを使用しないように示唆しているというアイコンの主張を却下した。また、766特許で用いられている複動式スプリングはアイコンの発明を使えないものにしてしまうため、766特許は624特許のクレーム制限を満たしていないという主張も、CAFCは却下した。

まず、CAFCは、766特許中の単動式スプリングの記載は、それらを624特許発明において使用することが望ましくないことを示しているわけではないと認定した。766特許は、むしろ、開くための力を軽減する観点から単動式スプリングを使用しないことを教示しているだけである。

次に、766特許が採用している複動式スプリングは誤った種類の力をもたらすため、766特許の機構は624特許でクレームされている発明を使えないものにするというアイコンの主張をCAFCは斥けた。

624特許の広いクレームは基部を安定して保持するのを補助するあらゆるものを包含しており、当業者は、766特許の複動式スプリングを624特許発明の基部を安定化させるための補助と見なせただろう。

最後に、766特許の複動式スプリングがアイコンのトレッドミル機構に過度の力を加え、動作不能にするということはないものの、当業者はアイコンの用途のために766特許の構成要素のサイズを調整し、624特許に適合する実施品を製造するだろうとCAFCは判示した。

KSR事件における最近の最高裁判所判決の観点から、異なる分野の発明が類似技術になりうることが示されたため、アイコン事件は重要である。アイコン事件のように、そのような類似技術が特許を無効化する引例となりうるからである。