この事件では、特許の侵害認定でのクレーム解釈の基準が示されました。クレーム文言の解釈では、特許出願当時のその技術分野の当業者の視点から文言が解釈されます。争点となるクレーム文言が明細書中に説明されていない場合、その文言は、一般的な辞書にある通常の意味で解釈されます。
明細書中で定義されていないクレーム文言を解釈するために辞書中の定義を参照した事件
この事件においてCAFCは、地方裁判所による、米国特許第6,049,928号(以下、928特許)の非侵害の判決を支持した。928特許は、公共の場所における汚損耐久性のある幼児用おむつ交換台に関する発明である。
CAFCは、「部分的に視界から隠されている」という表現は、「完全に」視界から隠されていることを含まないと判示した。
ヘルムスデルファー(Helmsderfer)及びブロカープロダクツ(Brocar Products, Inc.)(以下、合わせて「ブロカー」)は、ボブリック・ウォッシュルーム・イクイップ・インク(以下、「ボブリック」)のおむつ交換台が928特許のクレーム6及び7を侵害していると主張し、ボブリックを提訴した。
地方裁判所はマークマン・ヒアリングを行い、争点のクレーム文言の解釈について述べた。
ブロカーは、地方裁判所による「部分的に視界から隠されている」という文言の解釈に反対したが、係る解釈ではボブリックのおむつ交換台が非侵害と認定されることは認めた。
地方裁判所は、当事者が要求した通り最終の判決を下し、ブロカーは控訴した。
裁判所は、クレーム解釈において、特許の出願当時の関連技術の当業者の視点から、争点の文言の意味を判断しなければならない。特許権者は、文言に固有の定義付けをすることができるが、その場合、特許権者は「明細書中にその意図を明瞭に表現しなければならない」。
ブロカーは、地方裁判所による「部分的に視界から隠されている」という文言の解釈に反対し、裁判所は「少なくとも台の上面の一部が見えないように配置されている」として文言を定義付けすべきであると主張した。
ブロカーは「部分的に」という文言の通常の意味は、「完全に」を包含すると主張した。
明細書には、「上面が通常は視界から隠されている」と記述されている。ブロカーは、「通常」隠されている、とは「部分的に」隠されている、と等しいと主張したが、ブロカーは、何故二つの文言が同一に扱われるべきであるかを示す何の証拠も理由も提出しなかった。
判例法により、裁判所は「異なるクレーム文言は異なる意味を持つ」と推定する。
ブロカーはこの推定に反論する証拠を何も提出しなかったので、地方裁判所は、「部分的に視界から隠されている」という文言が、「通常は視界から隠されている」及び「少なくとも部分的に視界から隠されている」という文言と同じ意味を持つと解釈することを拒絶した。
CAFCは、地方裁判所が外部証拠(特許及びその審査経過以外の証拠)を適切に評価したと判示した。
裁判所は内在的記録から取れる意味と矛盾しない限りにおいて外部証拠を用いる。
本件では、明細書は「部分的」という文言を定義しておらず、また、その文言についての記述も無かった。したがって、文言の単純な意味を判断するためには辞書を頼りにするのが適切である。
裁判所が使用した3つの辞書は、「部分的(partially)」という文言を次の様に定義していた。①「ある範囲(to some extent)」②「ある程度(to a degree)、全体的ではない(not totally)」③「全体的とは反対に部分的な状態或いは程度(in partial way or degree, as opposed to totally)、ある範囲(to some extent)、一部分において(in part)、不完全に、限定的に(incompletely, restrictedly)、一部分は(partly)」
このように、どの辞書の定義付けも、ブロカーによる「部分的」という文言の広義の定義付けを裏付けるものではなかった。CAFCは、「部分的」という文言の通常の慣例的な意味は「全体的」を除外すると判示した。
ブロカーは、地方裁判所のクレーム解釈が、これらの特定のクレームから、好適な実施例及び個々の図示された実施例を不当に除外したと主張した。
一般的に、裁判所は好適な実施例、あるいは発明の範囲から開示された実施例を除外するようにクレームを解釈してはならない。
ブロカーは、地方裁判所による「部分的に視界から隠された」という文言の定義付けが、クレーム6および7をこれらの実施例から除外したと主張した。
しかし、CAFCは、実施例はそれらの特定のクレームだけの範囲から除外されたが、特許の他のクレームからは除外されていない、と述べた。
クレーム文言が明細書の記述に無い場合に、クレーム範囲の判断に辞書の定義を用いるのが妥当であることをCAFCが示した点でこの事件は重要である。
さらに、CAFCは、好適な実施例を含む明細書中のある実施例が、特定のクレームによって範囲から除外されたとしても、「部分的に隠された」という文言は、全体的に隠されたという意味を除外すると認定した。