クレームで使用されている用語解釈を行うのがクレーム範囲を画定するための基本的なステップであるが、本件は、PTABが用語解釈は不要としながら、実質的に用語を狭く解釈して、特許を有効と判断したため、CAFCにより取り消された。
IPR申請のあった特許クレームの記載全体から非自明性を認定したPTABの決定が、実際には特定の用語解釈に立脚した判断であって、その用語解釈に誤りあるとしてIPRの決定が破棄された事例
EcoFactor,Inc(以下「EcoFactor」)は、室内外の気温を検知してサーモスタットにより空調機の運転時間を制御する装置及び方法に関する特許8,498,753(以下「753特許」)を所有する。Google LLC(以下「Google」)は、753特許に対するIPRを申請し、先行特許として5,197,666(Wedekind)と6,216,956(Ehlers)を引用し、両特許の組み合わせにより753特許は無効であると主張した。PTABは、「証拠の優越」(preponderance of evidence)の程度が低いとしてGoogleの主張を退け、用語解釈を行わずにクレーム全体からその有効性を決定した。PTABのIPRの最終決定書には「用語解釈は不要」と記載された。
Googleは、①PTABが実際に用語解釈を行っており、しかもその解釈に誤りがあるのでIPRの決定は破棄されるべきである、②クレーム1の解釈に誤りがあり、その誤りを指摘する機会がIPRの申請人に与えられなかったのは「行政手続法」(APA)に違反する―と主張してCAFCに控訴した。
CAFCはPTABの決定を破棄し、事案を差戻し、その理由を以下のように説明した。PTABは「用語解釈は不要である」と言いながら、実際にはクレーム1で5個の入力事項を引用し、それぞれが「the first time prior to the target time」の計算のために入力しなければならないと解釈している。たとえ、自らの解釈が用語解釈であると認識していなかったとしても、結果としてそれは用語解釈に相当するものである。しかも、PTABのクレーム解釈自体にも誤りがあり、明細書には、PTABの限定的な解釈よりも広範な範囲の限定が支持されている。
最高裁判例により、クレームで使用されている用語解釈を行うのがクレーム範囲を画定するための基本的なステップである(Teva Pharm対Sandoz事件、Markman対Westview事件)。PTABが依拠した「証拠の優越」基準とは、無効資料としての引用特許の証拠能力が低いという判断基準である。この判断基準は裁判所が採用するものであり、このことからもPTABのIPRは司法手続きに準じた判断基準であることが判る。