この事件でCAFCは、仮出願の明細書を共有する本出願でありながら、関連する記載が意図的に本出願の明細書から排除されていた事案で、仮出願の記載を考慮して本出願の用語を限定的に解釈することは誤りであるとした。
本出願で削除された仮出願の記載による限定解釈を否定した事件
FMCは殺虫剤とダニ駆除剤に関する特許2件(9,107,416号及び9,596,857号)を保有する。2件の特許は、bifenthrinとcyano-pyrethroidの組成物(composition)をクレームするもので、いずれも米国仮出願60/752,979を基礎出願とし、その明細書を共有する。Shardaがbifenthrinとzeta-cypermethrinを含む殺虫剤WINNERを販売したため、FMCはShardaをペンシルベニア州東部地区連邦地裁に特許侵害で訴え、WINNERの販売の仮差止めを求めた。これに対して被告のShardaは、先行技術文献(1996年のMcKenzie論文)により当該特許が新規性を有しないと反論した。
地裁は、当初、クレーム中のcompositionをstable compositionに限定して解釈し、仮差止めについてのFMCの求めを退けた。地裁の限定解釈は、安定性を強調した仮出願や他のFMC特許の明細書の記載を考慮したものであった。出願人は審査時に、unstable compositionが非効率であることを知っていたことが審査経過書類に記録されていた。
FMCは請求理由を修正し、改めて仮差止めを求めるモーションを提出した。地裁は、composition をstable compositionに限定する解釈を維持し、仮差止めの請求については一転して認めた。地裁のcompositionの限定的な用語解釈を踏まえてShardaは、本件特許が自明につき無効だと主張した。しかし地裁はその主張を退けた。
ShardaはCAFCに控訴した。CAFCは、地裁がcompositionの解釈をstable compositionに限定して解釈したのは誤りであると判決し、その理由を次のように説明した。仮出願および関連特許に記載されているstabilityやstable compositionについての記載が、本件特許には含まれていない。仮出願や関連特許に含まれていた安定性についての記載が削除され、本件特許の出願明細書にはその記載が含まれていない事実は、本件特許におけるcompositionsがstable compositionのみをカバーする意図ではないことを示している。クレームの用語の解釈は、明瞭かつ通常の意味で解釈されるべきである。地裁のクレーム解釈は誤りであるため、地裁は自明を理由とした無効判断をやり直さなければならないとして、事件を地裁に差戻した。