この事件では、たとえ補正が許可に直結していない場合であっても、出願経過禁反言が適用される場合があることが明らかとなりました。この事件はまた、特許クレームでよく使用される文言の解釈が問題となりました。
審査経過禁反言が働く審査段階の補正と、クレームの用語の解釈
フェリックス(Mark D. Felix)は、荷台に標準的な車両のトランクによく似た収納を備えた小型トラックに関する米国特許第6,155,625号(以下、625特許)を所有しており、625特許の請求項6の侵害を理由にホンダを訴えた。
略式判決において、カンザス州地方裁判所は、文言上及び均等論上のいずれの侵害もないとの判決を下し、CAFCの3名の合議体は地方裁判所のクレーム解釈の分析を支持し、侵害はないとする略式判決を認めた。
625特許の請求項6は、ふたと「係合(engaging)」し、フランジに「取り付けられた(mounted on)」雨風を通さないガスケットを備えた車両の荷台と車両の組合せに関するものである。フランジは車両の荷台に取り付けられている。
発明者は、拒絶理由に対する応答の過程でガスケットの限定を加えたが、ホンダの製品であるIn-Bedトランクは、フランジを通して、荷台というよりはふたに付着しているガスケットを含んでいる。
マークマンヒアリングにおいて、地方裁判所は「取り付けられた(mounted)」を「しっかりとくっついている、もしくは固定されている」と意味するように、「係合(engaging)」を「一体となり、結合している」との意味に解釈した。
ホンダは文言上の侵害もなく、均等論上の侵害もないと主張し、略式判決を申し立てた。地方裁判所はホンダの両方の申し立てを認めた。
地方裁判所は、In-Bedトランクと争点となっているクレームのあいだにはガスケットの取り付け位置に関して相違があるために、文言上の侵害はないとしたのである。
均等論に関して、地方裁判所はまず、当事者は審査経過禁反言の推定が、審査過程で発明者により加えられたガスケットの限定に適用されると認めていることに言及した。そして地方裁判所は、ガスケットの限定は特許性に関係があり、故にフェリックスは、均等物による限定の侵害を主張することができないとした。
控訴審において、フェリックスは自身の定義を裏付けるためにクレームの用語の用例を頼り、「取り付けられた(mounted)」は「配置されている」との意味であり、「しっかりとくっついている、もしくは固定されている」との意味ではないと主張した。
しかしながらCAFCは、「取り付けられた(mounting)」は「配置されている」との意味ではないとする用例をクレームから引用し、これを認めなかった。例えば、ある部品と他の部品が付着していなかったら、その部品は単純に落下してしまうため、ある部品は他の部品の下面に接して「配置されている」ことはありえない、というわけである。
CAFCはまた、この解釈を支持する明細書中の例を挙げた。フェリックスは、また、「~に取り付けられた(mounted to)」ではなく、「~上に取り付けられた(mounted on)」という文言は、付着しているというよりは配置されていることを意味すると主張したが、CAFCは、「on」は付着を意味することがあると示している辞書を引用し、この意見を却下した。CAFCはまた、明細書では一貫してこのように「on」が使用されていると言及した。
フェリックスは、更に、「はめ込まれた(mounted)」に対する自身の定義を裏付けるために辞書に頼ったが、CAFCは同様にこの主張を却下した。
フェリックスはまた、「係合(engaging)」は「一体となり、結合している」よりはむしろ「接触している、もしくはくっついている」と意味すると主張した。
CAFCは彼の全ての意見を却下したが、「係合(engaging)」は「結合している」とまでは言えないとし、ふたが閉められているときには、ガスケットは「密閉するように係合する」とする明細書の記載を頼りとした。
CAFCは、この用い方からふたつの部品が結合しているというよりはむしろ単純に接触していることを示していると述べた。
CAFCは次に、特許侵害の問題に言及し、文言上の侵害はないとする略式判決を認めた際の地方裁判所の理由付けを支持し、同意した。CAFCはまた、均等論上の侵害もないとする地方裁判所の略式判決を支持した。
CAFCはクレームの範囲放棄の推定を生じさせる補正は、争点となっている均等物を包含するとみなし、ここで争点となっている限定はガスケットの限定であると言及した。この限定は出願当初の独立請求項1には含まれていないが、従属請求項7に存在していた。
フェリックスは、この最初の補正の中で出願当初の請求項1を削除し、請求項1及び7の全ての限定を含むように出願当初の従属請求項7を独立形式で請求項14として書き直した。従属請求項7のチャネルとガスケットの限定を削除されたより広い請求項に加える作用を持っていたのは、この最初の補正であった。
米国特許商標庁の審査官は、最初の補正の後に書面にて提出された、ガスケットの限定が加えられた更なる補正に応答して、625特許を許可した。
CAFCは地方裁判所に同意し、ガスケットの限定に関する補正は特許性と関係があるとし、たとえ補正だけでは許可という結果をもたらさないとしても、特許権者が特許性に関する理由のために、独立項を削除し、従属項を独立形式に書き直す場合は、審査経過禁反言の推定が適用されることを認めた。
この事件は、審査経過禁反言の原則に対して「関係性のない」補正の例外を明らかにしたために重要である。たとえ限定的な補正が許可という結果をもたらさないとしても、特許権者は均等論に基づく侵害の判決を受けることはできない。
この事件はまた「取り付けられた(mounted)」と「係合(engaging)」という特許クレームによく見られるふたつの文言の意味に焦点を当てたために注目すべきである。もし特許出願人がこれらの文言を異なって使用したい場合には、明細書の中でこれらの文言を異なるように定義づけたり、使用したりするべきである。