マニュアルの刊行物性と、発明の実施化における勤勉性を示すために必要な証拠を論じた判決,この判決でCAFCは、先行技術が公に入手可能であったことを立証する基準についての既存の判例を再度確認した。さらに判決は、発明の実施化における勤勉性を示すためには厳格な証拠の立証が必要であることを確認した。特許弁護士の仕事を通して勤勉性を立証する場合は、日々の仕事の完了を明記した詳細な記録を付けることが求められる。
マニュアルの刊行物性と、発明の実施化における勤勉性を示すために必要な証拠を論じた判決
争点の特許である米国特許第6,119,236号(236特許)は、ESR(Enhanced Security Research, LLC)に譲渡されており、ネットワークセキュリティ装置および未認証の人物によるLAN接続を防ぐ方法についてクレームしていた。
特許の装置は、以下の工程を実行することによりLANを保護する。(1)データフローパケットを監視し、不審なコミュニケーションパターンを検出する工程、(2)検出された脅威となる活動に加重値を割り当てる工程、(3)割り当てた加重値に基づきファイアーウォールを用いて通信を遮断する工程。
この事件は第三者による236特許の再審査請求から生れた。再審査手続きにおいて、PTOは先行技術になりえる2つの引例を考慮した。1つはセキュリティ違反からLANを保護する、ネットストーカー(NetStalker)という製品のソフトウエア・マニュアル(以下、マニュアルと称す)であった。マニュアルは、セキュリティ違反を監視、判別、そして遮断することにより、ローカルネットワークを保護するセキュリティ装置について記述していた。
2つ目はG.E. Liepins とH.S. Vaccaroによる論文(以下、リーピンス文献と称す)であり、ネットワーク上の異常な活動を検出可能なコンピュータ・システムについて述べていた。ESRは、マニュアルは先行技術文献ではないと主張した。
PTOの審査官は2つの引例を考慮し、クレーム1~19が自明であるとして拒絶した。ESRはクレーム1~5および7~19を補正し審判請求した。審判部はPTOの拒絶を支持し、ESRはCAFCへ出訴した。
CAFCは3つの争点、(1)マニュアルは先行技術文献として適正か、(2)ESRはマニュアルの完成前にその発明を実施化するための勤勉な努力を行なったか、(3)補正クレームは公に入手可能な先行技術文献を考慮し自明であるか、について審理した。
CAFCは、制定法に基づき、マニュアルは公に入手可能な先行技術文献であるとした審判部の認定に同意した。適用可能な判例法に基づき、文書は公に入手可能ならば先行技術文献と見なされる。公に入手可能とは、関心がある者なら誰でもその文書を入手可能であることを意味すると解釈された。
ネットストーカーは広告を出し、製品に関心のある者がリクエストしてマニュアルコピーを入手することを許諾していた。したがってCAFCは、マニュアルは先行技術文献であると判示した。
ESRはさらに、先行技術文献は文献全体として考慮されなければならず、提出されたマニュアルには抜けページがあったことから、そのマニュアルは先行技術文献として考慮されるべきではないと主張した。
CAFCは、審判部に提出されたマニュアルのバージョンは、60ページ以上の枚数があったと述べた。CAFCは、PTO独自の規則に基づき、テキストが50ページ以上ある場合、発明に関連するページを適切に提出すればよいと判示した。提出された部分の十分な理解に未提出の部分が必要ではない場合、このような選択的提出は適切である。CAFCは、審判部が提出されたマニュアルを全体として審理した際に、抜けページによってマニュアル中の開示および教示内容の理解が損なわれていなかったとする審判部の見解に同意した。
ESRは、マニュアルが仮に先行技術文献として適正であったとしても、ESRはマニュアルの公開前に発明を着想していたので、マニュアルは先行技術とはならないと主張したがCACFはこれを退けた。
当事者は、特許弁護士が合理的に勤勉に作業し、期限内に特許出願の準備を継続的に行ったことを示すことによって、発明の実施化に向けた努力を立証することが可能である。そのような努力の立証には、特許弁護士の仕事の正確な日数を示した記録を提供し、その仕事が完了したことを示すことが求められる。
ESRは出願前の4か月間仕事をしたと供述した特許弁護士の宣誓書を提出していた。その記録には、特許弁護士が5月のある特定の3日間仕事をし、7月にも作業が発生し、出願の準備に合計で30時間仕事をしたことが明記されていた。審判部はこれらの宣誓書は勤勉性の基準を満たしていないと判断し、CAFCもこれに同意した。
CAFCは、マニュアルとリーピンス文献との組み合わせにより、236特許の装置は発明当時の当業者にとって自明であったと判示して、審判部による特許法第103条に基づく特許無効の決定に同意した。
CAFCは、引例の組み合わせは、セキュリティ違反未遂の重症度を評価する装置をどのように作り、その評価に基づきどのようにセキュリティ違反を阻止するかを示していると判断し、マニュアルは、セキュリティ違反未遂の異なるタイプへ異なる重み付けを自動的に付与する方法を開示していないことから、マニュアル単独でクレームを自明とするには不十分であると認定した。
しかしながらCAFCは、リーピンス文献は、セキュリティ違反未遂の異なるタイプへ異なる重み付けを自動的に付与するという、系統的な規則に基づく構成をどのように作るかについて開示している、と結論付けた。
反対意見として、オマリー判事は、マニュアルを先行技術文献としての適格性があるとした多数派の結論について反論した。オマリー判事は、PTOがマニュアルの不完全なバージョンに基づいたのは誤りであり、提出された宣誓書はマニュアルが基準日までに公に入手可能であったことを十分に立証していなかったと主張した。判事は、審判部が自明性の問題にまで言及すべきではなかったと主張し、多数派の判決は、疑わしい記録に基づいてESRの特許権を誤って奪ってしまったと主張した。
Key Point?この判決でCAFCは、先行技術が公に入手可能であったことを立証する基準についての既存の判例を再度確認した。さらに判決は、発明の実施化における勤勉性を示すためには厳格な証拠の立証が必要であることを確認した。特許弁護士の仕事を通して勤勉性を立証する場合は、日々の仕事の完了を明記した詳細な記録を付けることが求められる。