CAFC判決

CAFC判決

Corephotonics, Ltd. 対 Apple, Inc. 事件

CAFC, No. 2022-1350, 1351 (October 16, 2023)

この事件でのPTAB決定の破棄は、Apple側の専門家の報告書の数値の設定の誤りが対象クレームのパラメータに影響するか、先行特許の組み合わせに影響するかを判断せずに、誤りがあることに基づいて、組み合わせについてApple側の主張が不十分であると結論付け、Appleに対して反論の機会を与えなかったことに起因する。

IPRで提出された専門家の報告書に数値の設定に誤りがあり、その誤りが対象クレームにどのように影響するかを判断しなかったPTABの決定を破棄した事例

Corephotonics, Ltd.は、ポートレート写真の撮影に関する特許10,225,479(以下「479特許」)を所有している。この特許は、広角レンズと望遠レンズで撮影した画像を合成して合成静止画を作成する「薄型(例えば、携帯電話に収まる)2絞りズームデジタルカメラ」を開示している。

Appleはこの特許の異なるクレームを対象とする2件のIPRを申請し、7,859,588(Parulski)を含む複数の先行特許を引用し、479特許の対象クレームが自明であると主張した。

1件目のIPRでは、両者は、請求項に記載の「広角カメラの視点(POV)」が何を要求するかについて争った。Appleは、請求項の広角カメラの視点(POV)は、融合画像がワイド視点またはワイド位置POVを保持することを要求していると主張したのに対し、Corephotonics, Ltd.は、融合画像は「ワイド視点」と「ワイド位置視点」の両方を維持しなければならないと主張した。PTABでは、Corephotonics, Ltd.の主張を採用し、Parulski特許は、広角ポジションのPOVを維持することのみを開示し、広角カメラの視点(POV)を維持していないと解釈し、Parulski特許はクレームの構成を開示していないとした。そして、Appleは、対象クレームが特許されないことを立証していないと結論付けた。

2件目のIPRでは、Appleは、Parulski特許とOgata特許(米国特許5,546,236)の組み合わせにより、クレームは自明であると主張した。Ogata特許は、「広角写真レンズシステム」を開示しており、その好ましい実施形態のレンズ構成要素の具体的なデータを列挙した複数の図表を含んでいる。Appleは、当業者であれば、レンズパラメータに関する具体的なデータを開示していないが、2絞りレンズシステムを開示しているParulski特許と、レンズパラメータに関する具体的なデータを開示しているOgata特許とを組み合わせることができると主張した。Parulski特許とOgata特許は異なるサイズのレンズを開示しているが、Appleは、当業者であればOgata特許のレンズをParulski特許が開示したサイズに合わせるために縮小することができると主張した。そして、当業者がそのようにした場合、結果として得られる縮小されたレンズは、対象クレームで要求される特性を有すると主張した。

Appleの主張は、専門家SasiánのOgata特許のレンズを縮小した報告書に基づくが、Sasián報告書では、Ogata特許レンズのアッベ数(逆分散率)をスプレッドシートに入力した数値データを、42.72とすべきところが26.5と入力されていた。

Corephotonics, Inc.は、この誤りのため、Sasián報告書は。Ogata特許のレンズの縮小版の性能を正確に反映していないと述べた。さらに、Corephotonics, Inc.側の専門家であるMoorは、Ogata特許のレンズを縮小すると、性能特性に影響を与えるため、提案された組み合わせは機能しないと意見した。これに対して、Appleは、Ogata特許のレンズを縮小しても、製造や性能に問題は生じないと主張した。

PTABは、Sasián報告書のアッペ数の数値の誤りと非球面データに関する追加的な誤りを特定し、Appleは、対象クレームが特許できないことを示す責任を果たしていないと判断した。

このように、PTABは2件のIPRのいずれについても、Appleが対象クレームの自明性を立証できなかったとして特許有効の決定を下した。これに対して、AppleはCAFCに控訴した。

CAFCは、1件目のIPRに対するPTABの決定について、「広角カメラの視点」を維持する融合画像を要求するクレーム用語は、融合画像がワイド視点又はワイド位置視点を維持することのみを要求し、両方を要求しないことを内在的証拠が裏付けていると判断し、Appleの主張する解釈が内在的証拠に合致するため、クレーム解釈を考慮したさらなる手続のため、PTABの決定を取り消し、差し戻した。

CAFCは、2件目のIPRに対するPTABの決定について、以下のように述べて取り消した。アッベ数は対象クレームに記載されておらず、Sasián報告書におけるアッベ数の誤りが対象クレームのパラメータにどのように影響を与えるのかをPTABは説明していない。また、PTABの指摘したSasián報告書における非球面データに関する誤りについては、当事者に主張反論の機会はなかった。PTABは、Sasián報告書における誤りの指摘のみで、これらの誤りが対象クレームにどのように影響し、Parulski特許とOgata特許を組み合わせることに成功することの合理的な期待があったかを評価していない。よって、PTABの決定を取り消し、差し戻す。