通常であれば、従業員が大学で博士号を取得した研究に基づく発明は、職場以外で行われたから、職務発明に該当しないとされるであろう。本案件では、従業員が雇用先からフェローシップ・プログラムを受けて博士号を取得した研究であったため、発明が雇用契約における私的な時間に行われたのか、職務の時間に行われたのか、定義が曖昧とされた。
職務発明のため権利の帰属が雇用主にあるとされた特許が、雇用契約の職務発明規定の定義が曖昧なため破棄・差戻された事例
Core Optical Technologies, LLC(以下Core Optical)は、6,782,211特許(以下211特許)を保有する。Core Opticalは、2019年11月から2020年8月までの間に、Nokia Corp., ADVA Optical Networking SE 及びCisco Systemsに代表される3つのグループ(以下総称してNokia)を相手どり、カリフォルニア州中部地区地裁に特許侵害訴訟を提起した。211特許は、発明者 Dr. Mark Coreが発明したもので、Dr. Coreは2011年、同特許をCore Opticalに譲渡した。Nokiaは、かつてDr. Coreが勤めていたTRW Inc.とDr. Coreとの間の1990年の雇用契約に基づいて、特許権はTRW Inc.に譲渡済みであり、2011年のCore Opticalへの特許権の譲渡は無効であると主張した。
Dr. CoreのTRWでの雇用は、1990年8月に始まり、雇用契約にいて、「TRWの事業または活動に関連し」、TRWに雇用されている間に「考案、開発、実用化」されたすべての発明をTRWに自動的に譲渡することに同意した。
この雇用契約には、TRW事業以外の発明について、TRWの設備、供給品、施設、企業秘密情報が使用されておらず、完全に私自身の時間によって開発された発明であって、(a) (1)TRWの事業に関連しないもの、(2)TRWの実際の研究または開発に関連しないもの、または(b)TRWのために行った仕事から生じたものではない、発明に対する権利を、TRWに譲渡することを要求するものではないという例外規定があった。
Dr. Coreは、TRWの従業員であった期間に大学に入学し、TRWからフェローシップを受けていた。1993年、Dr. Coreは、カリフォルニア大学アーバイン校の博士課程に入学し、TRWのフェローシップ・プログラムに採用された。Dr. Coreは、フェローシップの期間中、TRWの正社員として働き続けたが、勤務時間は短縮された。TRWはDr. Coreに、TRWが割り当てた特定の業務に従事させ、TRWは勤務時間の減少に見合った賃金を支払った。TRWはまた、コア博士がフェローであった間、毎月の給与と、医療保険、傷病手当、年金支給などの従業員手当を支払った。さらに、TRWはDr. Coreの授業料と諸費用を支払い、博士課程に必要な書籍と消耗品の費用を支払った。これらすべてのフェローシップ給付を受ける条件として、Dr. Coreは自分の職責に十分に関連する学位を取得すること、学位取得の進捗状況についてTRWの世話人と定期的に面談すること、学位取得後少なくとも1年間はTRWに戻りフルタイムで勤務すること(または、授業料や奨学金のような学位取得に関連する特定の費用をTRWに返済すること)が求められた。
Dr. Coreの博士論文と211特許の仮出願とはほぼ同一の内容である。211特許は、1998年11月5日に仮出願され、学位論文は、1998年12月21日に承認され、Dr. Coreは、1999年3月19日に博士号を取得した。Dr. CoreのTRWでの雇用は2000年8月に終了し、Dr. Coreは、自らCore Opticalに211特許を譲渡し、USPTOに譲渡を記録した。
Dr. Coreは、発明が就業時間外の私的な時間に行われたため、雇用契約の例外にあたると主張した。しかし、地裁は1990年の雇用契約により、特許権が自動的に雇用主のTRW Inc.に移転していたと判決した。地裁は、Dr. Coreの発明が、TRWの資金援助を受けた研究プログラムに参加することで完成した事実を重視して、特許権の帰属がTRWにあると認定した。Core Opticalはこの判決を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは地裁判決を破棄し、事案を地裁に差戻し、その理由を次のように述べた。
1990年の雇用契約書には、「自分の私的時間内に開発された」(developed entirely on my own time)発明を例外とするという文言があるが、その文言はDr. CoreのTRWのフェローシップ・プログラムによる博士号取得のための研究について曖昧である。Dr. Coreの発明は、彼の博士号所得の研究の中で生まれたものであるが、その研究に費やした時間が彼の私的な時間なのか、TRWの勤務時間なのかは必ずしも明確ではない。地裁は、この点についての曖昧さを明確にするための事実関係を確認する必要がある。
職務範囲を実情にそって合理的に解釈し、発明の帰属を雇用主に認めた事例である。