CAFC判決

CAFC判決

Callicrate 対 Wadsworth Manufacturing, Inc.事件

Nos. 2004-1597, 1598,2006,3,31-Oct-05

本件において、CAFCは、特許発明の実施可能性が明細書の発明の背景欄の記述によっても裏付けられる場合があることを示しました。また、発明の背景欄に特許発明の先行技術が開示された場合も、実施要件の記載の一部として判断することを示しました。

発明の実施可能要件と明細書の背景技術欄の記載の関係

Callicrate事件において、CAFCは、明細書の発明の背景欄にクレームの構造の先行技術が開示されていること、および特許の構造の問題点が指摘されていることは、先行特許の引用による実施可能性の立証を阻むものではないと判決した。

Callicrateは、大型動物の去勢方法および装置に関する米国特許番号第5,236,434号(以下、434特許)、第5,997,553号(553特許)、第5,681,329号(329特許)を含む、いくつかの特許を所有している。

Wadsworth Manufacturing,Inc. が特許付与されたコーキングガン(注)の構造を備えた去勢器具を販売開始した後に、Callicrateは構造の問題を発見し、巻き線部品の構造をクレームしていた434特許の改良装置を開発した。しかし、Callicrateの後願特許である553特許および329特許は、コーキングガンの締め付け構造と巻き線部品構造の両方をクレームしていた。Callicrateは、329及び553特許のコーキングガン型のクレームを侵害していると主張してWadsworthを提訴した。

被告のWadsworthは自社の装置がCallicrateのクレーム要素の全てを含んでいることを認めたが、Callicrateの553特許および329特許は、Wadsworthの先行特許(以下、739特許)に照らして新規性がなく自明であり、特許は無効であると主張した。

Callicrateは、Wadsworthの736特許以前に出願された434特許に対する優先権を329及び553特許において主張した。Wadsworthは、434特許がコーキングガン構造の使用を開示していないことを理由に、Callicrateの2つの特許には434特許の優先権を主張する権利がないと反論した。

地方裁判所は553及び329特許には434特許の優先権を主張する権利がないと判決し、陪審員は全てのクレームは新規性がなく、自明であり、侵害はないと認定した。Callicrateは下級裁判所の判決を控訴した。

地方裁判所は、3つの理由から434特許はコーキングガンの締め付け構造の使用に関する十分な「開示」も「サポート」も含んでいないという結論に至った。その3つの理由とは、(1)コーキングガン構造の開示を発明の背景欄にのみ開示している、(2)発明の背景欄にこの構造の問題点を記述している、(3)Callicrateは、審査過程において巻き線部品の構造をコーキングガン構造と区別していたというものである。しかし、CAFCは、これらの3つの理由は、それらを組み合わせたとしても、329及び553特許が先願特許によって十分に実施可能にすることはできなかったという地方裁判所の判決を裏付けるものではないと判示した。

CAFCは、434特許は、発明の背景欄においてコーキングガンの構造の問題点を指摘しているが、十分にこの機構を実施可能であると結論付けた。

まずCAFCは、発明の背景欄をクレームを実施可能にする目的に用いることは可能であると次のように定義した。

「特許明細書は、たとえ発明の背景欄のみに実施可能な記載をしていたとしても、特許法に基づき発明の特徴を十分に実施可能にするものである」

次に、CAFCは、「発明の背景欄において問題点を指摘したり、先行技術が効果の弱いことを述べていても、その記載は実施可能要件の対象となる記載の一部である」と結論付けた。

CAFCは発明の背景欄においてコーキングガンの締め付け構造の問題点について述べることは、当業者がその背景欄を読んだ後で、その発明の製造方法及び用途を理解しないということにはならないと理由付けた。

CAFCは、証拠は陪審員の非侵害の評決やCallicrateの特許の無効性を裏付けるものではない、と判示した。さらに、下級裁判所は争点の特許の先行技術を誤って解釈したとして、CAFCは、739特許に対して新規性がなく自明であるとした陪審評決を破棄した。

CAFCはさらに、下級裁判所はクレーム文言を明細書から限定的に誤った解釈をし、明細書中の全ての実施例を考慮して文言を解釈しなかった、と判決した。

この複雑な侵害事件において、CAFCは、明細書の発明の背景欄に含まれる開示は十分に特許法の実施可能用件を満たしていることを明らかにした。