CAFC判決

CAFC判決

C.R. Bard, Inc. 対 Atrium Medical Corp. 事件

9th Circuit, No. 23-16020 (August 23, 2024)

この判決で控訴裁は、特許有効期間を超えたロイヤルティ徴収を禁じたBrulotte事件最高裁判決(1964年)の適用にあたっては、特許有効期間を超えたロイヤルティが規定されているかどうかのみを問うべきであり、交渉中の当事者の主観的な動機を地裁が考慮したことは誤りであると判断した。

最高裁判例で禁止された特許有効期間を超えるロイヤルティ徴収の有無が争われた事件

人工血管に関する米国特許とカナダ特許をもつC. R. Bardは、Atrium Medical Corp.を特許侵害で訴えていたが、両者はライセンス契約を結び和解した。和解条件は、許諾特許の有効期間中、Atriumが許諾製品1台あたり許諾製品の販売価格の15%をロイヤルティとして支払い、FDAの認可が出るまでは四半期毎に最低実施料として375万ドルを支払うというもの。米国特許は2019年に、カナダ特許は2024年に権利が満了した。FDAの販売承認が遅れたため、Atriumは、最低実施料が基本的に米国販売を補填する目的であるとして、米国特許の満了後に契約最低実施料の支払いを停止した。Bardは、Atriumがライセンス契約に違反したとしてアリゾナ州地裁に提訴した。

地裁は、ミニマムロイヤルティの支払規定の目的がBardの米国市場での販売減少の補填であるとのAtriumの主張を認め、許諾特許の有効期間を超えてロイヤルティを徴収することを禁止した最高裁判例(Brulotte v. Thys Co.事件,1964年)に背反するとしてBardに特許権濫用があったと認定した。Bardはこの濫用認定を不服として第9巡回区控訴裁に控訴した。

控訴裁は地裁判決を破棄し、その理由を次のように述べた。権利満了後の特許料徴収を違法とした最高裁判決のポイントは、契約が特許満了後のロイヤルティ支払いを求めているかどうかである。本件の場合、米国特許の失効後は、カナダでの販売のみに最低ロイヤリティが適用され、米国での販売には適用されないから、本契約は米国特許の失効後の使用に対するロイヤリティを定めたものではない。最高裁判例の適用は、契約の条項に依存する法律問題であり、当事者の動機や交渉経過などには左右されない。地裁が当事者の主観的な契約動機(subjective motivations)を考慮したことは誤りである、と結論づけた。

報告者紹介

Yasuhiro Otsuka, Ph.D. (Eng.)
Partner / Deputy Managing Director, Otsuka International Patent Office
Japanese Patent Attorney (Registered 1999)

Dr. Otsuka earned his Doctorate in Engineering from the Department of Electronic and Information Engineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo. As leader of the firm’s litigation team, he has steered clients to success in numerous patent disputes—including landmark Grand Panel (en banc) cases before the Intellectual Property High Court. A prolific author, Dr. Otsuka has written extensively on intellectual property, including the well-known book Understanding Patents (Ohmsha). His practice concentrates on patents and litigation related to image processing, coding technologies, and telecommunications.

弁理士 木下智文
大塚国際特許事務所 弁理士。平成25年弁理士登録。

東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬学専攻・修士課程修了。薬剤師。日本弁理士会国際活動センター米州部副部長、同部研究成果報告セミナー講師。大塚国際特許事務所のシステムアドミニストレータとしても活躍する。医薬、化学、ネットワーク、画像処理の特許、訴訟を得意とする。近年マラソン大会に出場することを趣味としているが、体型のためかクライアントに自慢すると賞賛されずに心配される。