この判決において、CAFCは、当事者系レビュー(IPR)手続中に特許権者によって米国特許商標庁での陳述であってIPRの開始前のものが、後の連邦地裁による特許クレームの解釈において根拠になり得るかについて判示した。CAFCは、IPR申立てに対する特許権者の予備的応答における陳述を根拠として特許クレームを狭く解釈したうえで、その狭い解釈に基づいて非侵害の略式判決を下した連邦地裁の判断を支持し、たとえ開始前であっても、IPRにおいてなされた特許権者の陳述はクレームの技術的範囲の審査経過における一部放棄を構成するとの判断を維持した。特許権者は、開始前に提出する予備的応答であってもIPRにおける陳述に対してより一層注意を払わなければならない。
IPRの予備的応答における特許権者の陳述は審査経過における一部放棄を構成する
Aylus Networks事件において、CAFCは、当事者系レビュー(IPR)手続中に特許権者によって米国特許商標庁になされた陳述であってIPRの開始前のものが、後の連邦地裁による特許クレームの解釈において根拠になり得るかについて判示した。連邦地裁は、IPR申立てに対する特許権者の予備的応答における陳述を根拠として特許クレームを狭く解釈したうえで、その狭い解釈に基づいて非侵害の略式判決を下した。CAFCは、これを支持し、たとえ開始前であっても、IPRでの特許権者の陳述はクレームの技術的範囲の審査経過における一部放棄を構成するとの判断を維持した。
米国特許番号第RE44,412号である問題の特許は、Aylus Networks, Inc.(Aylus)が特許権者で、メディアコンテンツのストリーミング及び表示に用いるネットワークアーキテクチャに関する。いくつかの構成要素の中で特に、クレームされたネットワークアーキテクチャは、コンテンツ配信を容易にするための、ネットワークにおける通信中に様々なタイミングで呼び出し可能なコントロールポイント(CP)ロジックとコントロールポイントプロキシ(CPP)ロジックとを含む。
Aylusは、カリフォルニア州北部地区の連邦地裁にApple Inc.(Apple)を特許権侵害で訴え、Appleは、2つのIPRの申立てを米国特許商標庁の審判部(PTAB)に提出した。Aylusは、開始決定前に、2つのIPRの申立てに対する予備的応答を提出した。PTABはいくつかのクレームに関してIPRを開始したが、クレーム2,4,21及び23については開始を認めなかった。Aylusは、その後連邦地裁の事件において、クレーム2及び21を除く全ての主張クレームに関する侵害の主張の全てを放棄する、自発的放棄の通知を提出した。
この放棄の後、Appleはクレーム2及び21の非侵害についての略式判決の申立てを提出した。問題になったクレームの限定は、「前記CPPロジックは、前記MS[Media Server]と前記MR[Media Renderer]との間のメディアコンテンツ配信を取り決めるために呼び出される」構成である。連邦地裁は、この限定を、「前記MSと前記MRとの間のメディアコンテンツ配信を取り決めるために前記CP及びCPPの 両方 を必要とするクレーム1及び20に対し、前記CPPロジック のみ がメディアコンテンツ配信を取り決めるために呼び出されることが必要である」と解釈した。この解釈に達する過程で、連邦地裁は、Appleの2つのIPRの申立てに対する、Aylusによる予備的応答における陳述を根拠として、「審査経過における一部放棄と同様、」特許権者が「審査経過において一部放棄した特定の意味を、クレーム解釈を通して取り戻す」ことを排除するために用いる法理を認めた。このクレーム解釈に基づき、連邦地裁は非侵害の略式判決を下した。
Aylusはこの判決に対してCAFCに控訴した。まず、Aylusは、IPR中の陳述は審査経過における一部放棄を認めることを裏付ける根拠とはなり得ない旨を主張した。特に、Aylusは、IPR手続は行政的手続よりむしろ裁判的手続であるため、IPR手続中の陳述は再審査或いは再発行手続においてなされた陳述とは異なることを主張した。
この主張に対し、CAFCは、審査経過における一部放棄の法理‐十分な米国最高裁の先例によって裏付けられた法理‐が、特許クレームが「特許査定を得るために一方の意味に解釈され、被疑侵害者に対して異なる意味に解釈され」ないことを保証するために用いられることを明白にした。しかしながら、この法理は、「審査経過においてなされた一部放棄の行為又は陳述が明確かつ誤解の余地のない」場合にのみ適用される。CAFCは、再発行や再審査のようなPTABにおける他の付与後審理に対してこれまで審査経過における一部放棄を適用してきたことに言及し、また、IPRが行政的手続よりむしろ裁判的手続であるとの主張を否定した。CAFCは、IPR手続が「裁判的手続よりもむしろ専門機関での手続に近い」ことを認めたCuozzo Speed Technologies, LLC.対 Lee事件(136 S. Ct. 2131 (2016))における最高裁の判断を引用した。従って、CAFCは、付与後審理の他の事件のように、IPRに対して上記法理を拡張しない理由は無いと考えている。このようにすれば、特許権者がクレームに対し、IPRにおいて特許性を維持するために一方の理由を主張し、裁判所において被疑侵害者に対して他の理由を主張することを防止することになる。これは、IPR手続中に特許権者がした陳述に対する公衆の信頼を保護することにもなる。
Aylusはまた、Aylusの陳述がPTABによる開始決定前の予備的応答でのものであるため、その陳述は実際にはIPR手続の一部ではない旨を主張した。CAFCはこれを否定し、審査経過における一部放棄の目的に対しては、IPRの2つのフェーズの間の違いは差異の無い区別だと認定した。公衆は、陳述がいつなされたかに関わらず、その陳述を根拠にする権利を有する。
最後に、Aylusは、IPR手続きでの陳述は、審査経過における一部放棄を適用するために必要な、クレームの技術的範囲の明確かつ誤解の余地のない一部放棄を構成しない旨を主張した。CAFCはこれを否定し、IPRでの陳述に対するAylusの提案した解釈は不合理であると認定した。実際、口頭弁論において、Aylusの代理人は、Aylusの陳述の通常の意味は(関連する条件において)CPロジックが呼び出されることができず、従ってCPPロジックのみが呼び出されることであることを認めていた。このため、CAFCは、連邦地裁による審査経過における一部放棄への依存及びその結果としてのクレームの解釈に誤りは無いと認定した。
この判決は、例え開始前に提出する予備的応答であっても、特許権者がIPRにおいてする陳述に対してより一層注意を払わなければならないことを意味する。特許権者は、IPRにおいて後の訴訟での侵害主張に悪影響を与えうる意味にクレームを解釈しないことを確実にしなければならない。更に、「明確かつ誤解の余地の無いクレームの技術的範囲の一部放棄」を構成するとみなされうる主張を(可能なら)避けるようにIPRでの主張をドラフトしなければならない。
情報元:
Michael P. Sandonato
Brian L. Klock
Venable LLP