この事件でCAFCは、IPR申請書に記載された無効理由と異なる理由はIPR審理で主張できないが、審理中に新たに提示された用語解釈の下で新たな無効理由を主張することは許されると判断した。
IPR申請当初の無効資料を用いて、IPR審理中に提示されたクレーム解釈に従う新たな無効理由を提示することが許容された事件
被請求人(Medtronics, Inc.)は、埋込み医療器具への経皮充電方法に関する特許2件(8,457,758及び8,738,148)を保有している。これらの特許は、伝導性結合により充電器(体外)と医療器具(体内)間で充電を行う際に充電器の電流を自動的に調節することで充電効率を改善する方法に関する。クレームには、医療器具の内部電源を通過した電流に関連する「数値」(value)に基づいて充電器(外部電源)の出力を調整するという限定と、内部電源を通過した電流に関連する「計測電流」(measured current)に基づいて充電器の出力を調整するという限定と、の双方が記載されていた。2つの特許の明細書の記載は実質的に同一の内容である。
請求人(Axonics, Inc.)は先行特許3件を無効資料として引用し、原告の2件の特許(以下、係争特許)の一部クレームが自明であるとしてIPRを申請した。請求人は、2つ目の限定は「数値」を「計測電流」に限定しただけであり、クレームにおいて別々の測定は必要とされていないこと(one-input方式)、「計測電流」に基づく出力の調整は引例から自明であることを主張した。予備応答(preliminary response)の段階で、被請求人はこのクレーム解釈を争わなかった。
IPRの開始後、原告は、「数値」に基づく出力の調節と、「計測電流」に基づく出力の調節の双方が必要である(two-input方式)というクレーム解釈を初めて主張した。請求人は、one-input方式のクレーム解釈を維持しつつ、無効資料にtwo-input方式が開示されていると主張した。しかし、PTABは審決においてtwo-input方式のクレーム解釈を採用し、two-input方式が自明であることがIPR申請書の中で主張されていないとしてその主張を退けた。請求人はCAFCに控訴。
CAFCは、PTABの審決を破棄し、その理由を次のように述べた。CAFCは、PTABの審決を破棄し、その理由を次のように述べた。IPRは、申請書に記載された無効理由に基づいて行われるのが原則である。しかし、本件の場合、被請求人によるtwo-input方式のクレーム解釈はIPR開始後の答弁書の中で初めて提示されたものであるから、そのような新たなクレーム解釈の下で無効主張を行う十分な機会がIPR申請者に与えられなければならない。本件において、PTABがこのような主張を審理することを拒否したことは誤りであり、審決を破棄する。なお、新しいクレーム解釈に対し新規の無効資料を引用して反論することは認められないが、本件では当初に提出されている公知例(証拠)に基づき特許権者の新しいクレーム解釈の下での無効主張を行っているから、本件には当てはまらない。
連邦最高裁判例(SAS v. Inacu, 2018年)により、IPRは申請書で提起された証拠と理由に基づき進めなければならない。そのため、USPTOは2019年、「IPR便覧」において、IPRの申請書で挙げた無効理由や無効資料とは異なる、新しい無効理由や無効資料を主張することはできないと規定した(Consolidated Trial Practice Guide 73 (Nov. 2019))。この判決例は、いわばその規定の解釈が判例に照らして硬直すぎると判断したものである。