CAFC判決

CAFC判決

Amgen Inc. 対 Sanofi 事件

CAFC No. 20-1074,2021,2,11-Feb-21

この事件でCAFCは、機能限定クレームにつき、実施可能要件を満たすためにはクレームの全範囲が実施可能であることが求められることを確認した上で、機能で限定されていた本件の抗体のクレームについて実施可能要件を否定した。実施可能要件はクレームの広さ及び具体的な事実に基づいて判断されるものではあるが、機能のみで特定した抗体のクレームが実施要件を充足することの難しさが見て取れる。

クレームが機能的な記載(限定)で広いため、明細書の記載要件不備が認められた事例

AmgenはPCSK9-LDL受容体反応を抑止するため、PCSK9に結合する抗体に関する特許(8,829,165及び8,859,741)を所有する。両特許の明細書の記載はほぼ同一で、クレームはすべて抗体に関するものであり、2つの機能、すなわち①PCSK9タンパクの特定のアミノ酸残基に結合する、②PCSK9のLDL受容体への結合をブロックする―で定義されている。

Amgen(原告)は2014年、Sanofi他数社(被告)を、本件特許を含む複数の特許侵害で訴えた。被告は、本件特許の実施可能要件の不充足と明細書の記載不備による特許無効を主張したが、地裁は特許を有効と認めた。事案はCAFCに控訴され、CAFCは、地裁における陪審員への説示及び一部証拠の排除判断が正しくなかったとして、地裁判決を破棄・差戻した。差戻審で陪審は、実施可能要件の不充足と記載不備の問題を審理し直し、結局、被告が特許無効を立証できなかったと評決した。そこで被告は、判事による審理と新たなトライアルを求めるモーションを提出した。地裁は、記載不備と新たなトライアルのモーションについては退けたものの、実施可能要件の不充足を認めた。原告はこの差戻審での判決を不服としてCAFCに控訴した。

CAFCは、次のように述べて、原告の控訴を退けた。実施可能要件は、判例(In re Wands, CAFC 1988)が明示した8つの要素を考慮して判断する。過去の判例によれば、特に予測可能性及び示唆が不十分な場合、機能表現を含むクレームの実施可能要件の判断においては機能表現の広さに注目する。特に、開示されている限られた実施例だけでなく、クレームの全範囲について、作成し及び使用するためにどれだけの実験が必要であるかを見定めるのが重要である。

本件においてクレームの範囲が広いことに疑いはない。そして、本件は結果を予測しにくい科学分野に関し、クレームの一部の抗体のみについて生成可能であることを示す証拠があるにすぎないし、クレームの全範囲を実施可能とするような明細書中の示唆はない。したがって、クレームの全範囲を実施するためには「不当な実験」(undue experimentation)が要求され、実施可能要件を満足しないと判断した地裁の判決に誤りはないと認定した。